
いよいよ1月20日、米国の政権が交代する。 トランプ政権とは、いったいどのような存在だったのか。 米国現代政治研究の重鎮、久保文明・東京大学教授は3つの視点を挙げる。 公約の実現度、政治姿勢、支持率だ。 その外交政策においては原則を欠いた。 日米安保条約が持つ複雑な構造を最後まで理解しなかった。中国の習近平国家主席には再選支持を依頼したとされる。 北朝鮮政策は思い付きとパフォーマンス重視だった。
(聞き手:森 永輔)
いよいよ1月20日、米国の政権が交代します。トランプ政権が退陣し、バイデン政権が誕生する。久保さんは、トランプ政権の4年間をどう評価しますか。それを測るポイントは何でしょう。
久保:ポイントとして次の3つを挙げたいと思います。第1は、公約をどれだけ達成したか。第2は政治姿勢。第3は世論の支持を得ていたか否か、です。
公約の実現度は合格点
それぞれのポイントにおける評価を聞かせてください。
久保:公約の達成度合いは意外にもかなり高く、合格点を得たと評価します。

東京大学教授。専門はアメリカ政治外交史。
1979年に東京大学法学部を卒業。筑波大学社会科学系助教授、慶応義塾大学法学部教授を経て、2003年に東京大学大学院法学政治学研究科教授に就任。著書に『マイノリティが変えるアメリカ政治 - 多民族社会の現状と将来(編著)』『アジア回帰するアメリカ - 外交安全保障政策の検証(編著)』など。(写真:加藤 康、以下同)
まず達成できなかった方を挙げてみましょう。オバマケアを廃止することはできませんでした。就任して最初の2年、与党である共和党は議会の上下両院で多数を得ていたにもかかわらず、実現できなかった。次にメキシコ国境の壁も実現できていません。一部を建設してはいますが、「メキシコ政府に費用を払わせる」ことになっていません。
経済は、2020年2月までは絶好調。失業率は3.5%まで下がり1969年以来の最低をマークしました。完全雇用を達成したと言えます。しかし、新型コロナ危機が訪れ、その対応でつまずきました。それが経済を悪化させ悪循環を引き起こした。新型コロナ危機への対応は公約ではありませんが。
とはいえ、達成できたものもかなりあります。
まず、就任するやいなやTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱。同じく貿易に関わるNAFTA(北米自由貿易協定)を再交渉し、新たなUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を締結しました。
次に地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱。
中東では、イラン核合意から離脱するとともに、エルサレムをイスラエルの首都と認め米大使館を移転しました。
内政においては、最高裁判所の判事に3人の保守派を指名。従来の均衡を崩し、陣容を保守派6人、リベラル派3人というバランスに変えました。
それぞれの公約の是非は別の問題です。公約の内容は、民主党が「とんでもない」と非難するものばかりですし、共和党本流の政策と相いれないものもあります。しかし、約束したことを実現するという点においては、かなりを達成しました。
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