反撃能力とアクティブサイバー防衛は、自衛隊が取る行動の作用が相手国内に及ぶため、専守防衛という基本政策との兼ね合いが議論の的になってきました。
中林氏:その議論を乗り越えて決断したのは重要です。
専守防衛の骨子は「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使」すること。つまり、日本から先制攻撃はしないことです。日本にその意図はありません。ミサイルの発射拠点をたたくことは「自衛のための必要最小限」にとどまるものです。
日米同盟は「日本が盾、米国が矛」という役割分担とされてきました。日本が盾の役割を担う背景に専守防衛があります。今回の首脳会談で、この役割分担は修正されたのでしょうか。
中林氏:役割の修正というより、盾と矛の間に線を引くことが困難になったのだと思います。弾道ミサイルの進化など科学技術の進歩が、これを困難にしました。
それぞれの役割を盾と矛に分けること自体が合理的でなくなったわけですね。
中林氏:そう考えます。
米国から「上から目線」が消えた
第2のポイントは米国の変化。どのような変化ですか。
中林氏:日本の政策転換を米国がそのまま受け入れ、歓迎していることです。この転換を米国の安全保障関係者は大歓迎。私が知るある米軍関係者は「床に頭をこすりつけて感謝したいほどだ」と語っていました。かつてのような上から目線はなくなっています。

バイデン政権は同盟国との連携を強めたい考えです。その背景には、米国の軍事力が相対的にかつてより低下していることもあります。例えば、ウクライナに武器を提供していることの余波で、米国自身の充足率が低下しています。「日本や韓国、オーストラリアにライセンスを供与して生産してもらうべきだ」との声が耳に入るようになりました。
日本は、航空自衛隊が使用する戦闘機F-2の後継機を英国、イタリアと共同開発する方針を決めました。これまでの米国だったら、口をはさんできたかもしれません。実際に、F-2開発プロジェクトは、日本は国産で開発・生産する考えでしたが、米国の介入を経て、日米共同開発になりました。それも米国が運用する既存機F-16の改造開発でした。
中林氏:そうですね。日本の次期戦闘機開発への態度も米国の変化を示す象徴の1つと言えます。
ポイント1と2から考えて、日米同盟は今後、どのようなものになっていくのでしょうか。
中林氏:米国が言う「統合抑止」*を目指すのだと思います。
ポイント1で指摘した日本自身の防衛力増強は必要なことではありますが、それだけで日本を守ることはできません。中国はその経済力を高めるのと軌を一にして軍事力を高めてきました。
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