バイデン大統領は岸田首相を「真のリーダー。真の友人」と呼んだ(写真:代表撮影/ロイター)
バイデン大統領は岸田首相を「真のリーダー。真の友人」と呼んだ(写真:代表撮影/ロイター)

岸田首相とバイデン米大統領が1月13日、首脳会談に臨んだ。早稲田大学の中林美恵子教授は「日本が示した安全保障政策の転換は戦後最大」と評価する。そのポイントは「自分の国は自分で守る」こと。日米はこの先に、統合抑止の実現を描く。

(聞き手:森 永輔)

岸田文雄首相とジョー・バイデン米大統領が1月13日、ホワイトハウスで首脳会談を行いました。今回の会談をどう評価しますか。

中林美恵子・早稲田大学教授(以下、中林氏):これからお話しする3つの意味で重要な会談だったと思います。第1のポイントは、日本の安全保障政策が大きく変わりつつあることを示したこと。第2は米国の大きな変化を示していること。そして第3は、5月に予定される主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)への道筋をつけたことです。

中林美恵子(なかばやし・みえこ)
中林美恵子(なかばやし・みえこ)
早稲田大学教授。専門は米国政治。米ワシントン州立大学修士(政治学)、大阪大学で博士(国際公共政策)を取得。元衆議院議員。経済産業研究所研究員や財務省財政制度等審議会委員など歴任。米国在住14年のうち10年間は米連邦議会上院予算委員会の連邦公務員(共和党)として国家予算編成を担った。(写真:加藤 康)

吉田ドクトリンから脱却する戦後最大の変化

 第1について、この変化の大きさは戦後最大と言っても過言ではありません。大きく捉えれば、これまでの安保政策は吉田ドクトリンを継承するものでした。日本が攻撃を受けたときには「米国が守ってくれる」「米国が攻撃してくれる」という考えが根底にありました。盾と矛の役割で言えば、日本は盾の役割だけを担う。米国の軍事力に頼ってきたわけです。

*=吉田茂首相(当時)が進めた軽武装、経済重視の路線。安全保障は米国に依存することになった

 これが「自分の国は自分で守る」に変わりました。この変化を後押ししたのは、ロシアによるウクライナ侵攻です。ロシアが隣国を侵略。同じく強権国家である中国も同様の行為に及びかねない。すなわち、日本の周辺でウクライナ侵攻のようなことが起こりかねない。仮にそうなったら、ウクライナのように、自分の国は自分で守るべきだ。そうしなければ、どこの国も助けてくれない――。日本の国民の間でこうした理解が進みました。岸田政権はこの機を捉え転換を明確にしました。

 それが顕著に表れているのは防衛費の増額です。2027年度にGDP(国内総生産)比2%にする方針を打ち出し、2023年度予算案で過去最大の約6兆8000億円を盛り込みました。加えて、反撃能力やアクティブ・サイバー・ディフェンス(積極的サイバー防衛)の導入も、この変化の一環です。

次ページ 米国から「上から目線」が消えた