2022年の日本経済を展望する。資源価格の高止まりや半導体その他の供給制約など、日本経済をインフレ要因が取り囲んでいる。しかし、小林俊介・みずほ証券チーフエコノミストは2022年のインフレ率を「1%弱」とみる。さらに、この状況が企業を疲弊させるという。それはなぜか。脱却のカギは「生産性」の理解にある。

(聞き手:森 永輔)

FRBがインフレ退治に本気になれば、株安を誘導する公算が大きい(写真:ロイター/アフロ)
FRBがインフレ退治に本気になれば、株安を誘導する公算が大きい(写真:ロイター/アフロ)

前回は、2022年のGDP(国内総生産)成長率を最大2.7%増(前年比)とみること、およびその前提をうかがいました。影響を与える重要な要素は(1)新型コロナウイルス感染症の動向、(2)自動車の生産動向、(3)資源価格の高騰による交易条件の変化、ですね。

 下振れを招く要因となる自動車生産の引き続きの縮小と資源価格の高止まりは、いずれもインフレ要因ですね。しかし、小林さんは日本の2022年のインフレ率を「1%弱」と見込んでいます。それはなぜですか。

それでも日本のインフレ率が1%弱にとどまる理由

小林俊介・みずほ証券チーフエコノミスト(以下、小林):日本では米国と異なり、資源価格の高騰などのコスト増分を消費者価格に転嫁するのが難しいからです。

 米国の消費者が、「300万円の新車を中古車市場に持っていけば500万円で売れる」というクレイジーな価格上昇を受け入れているのはなぜか。背景にあるのは、ジョー・バイデン政権の財政政策です。

 1.9兆ドルに及ぶ追加コロナ対策などにより、米国の消費者は巨額のキャッシュを手にしました。2020年4~6月期以降18カ月間に米国家計が積み上げた貯蓄は4.4兆ドル(約500兆円)。これは2019年の年間貯蓄額の3.5倍、日本のGDPに相当する金額です。さらに株式の値上がりにより、金融資産の保有高は114兆ドルに達しました。パンデミック前の2019年末に比べて20.7兆ドルも増加しています。こうしたキャッシュが貯蓄だけでなく消費に回ったのです。

日本でも給付金がありました。その大半が貯蓄に回っただけなのとは大違いですね。これは国民性の違いでしょうか。

小林:国民性の違いは確かにあります。米国人は日本人に比べて市場の変化への感応度が高い。巨額のキャッシュを得て、消費を拡大するだけでなく、離職する人の数が拡大しているのも米国人の国民性の表れでしょう。

 加えて、株をはじめとするリスク資産を米国人が多く保有していることも影響しています。株高が資産効果を生み、消費をさらに促す循環ができているのです。

 一方、日本に目を向けると、新型コロナ危機が落ち着きをみせても経済の再開が進んでいません。このためテレワークができない職種では収入の確保が難しい状況です。賃金に目を向けると、総雇用者所得は名目ベースで2020年に前年比1.1%減少しました。2021年は増加に転じ、通年では2019年並みとなる見込みですが、それはすなわち、2019年の価格より値上げはできないことを意味します。

 十分な所得がある人にとっても、それを使う場所がありません。よって需給ギャップはマイナスで供給過剰の状態にあります。

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