
「ああ、この人、北京に行ってた!」
淡々とチェックインの手続きを進めていたホテルの女性従業員が、記者のスマホ画面を見て突然こう叫んだ。7月上旬、世界最大の日用品卸売市場がある中国浙江省義烏市で宿泊しようとしたときのことだ。
新型コロナウイルスの流行以降、中国でホテルに泊まろうとすると、スマートフォンで複数のQRコードを読み込んだり提示したりすることが求められるようになった。確実に求められるのは「健康コード」だ。各地方政府が運営しており、移動履歴や新型コロナウイルスの感染者との接触履歴などから、本人の感染可能性を高中低の順に、赤黄緑の3色で表示する。緑が表示されなければ公共交通機関の利用やホテルでの宿泊などに支障をきたす。地方政府ごとに利用しているアプリが異なるため、外国人には登録も一苦労だ。
義烏のホテルでは、さらにもう一つQRコードを読み取るよう指示された。携帯電話の基地局情報から得た、移動履歴を調べるアプリである。キャリア(通信事業者)を選択すると、過去30日以内に行った地域が表示される。記者は6月、生鮮市場から新たな新型コロナ感染者の集団感染が見つかる少し前に北京市を訪問していた。その情報が、スマホ画面に表示されていたのだ。
義烏市に赴いたのは北京市を離れて28日後のことだ。中国は感染者が確認された地域をきめ細かく管理している。北京に行ったとは言え、記者が感染者が見つかった地域を訪問していなかったことや濃厚接触がなかったことは確認済みであり、移動に制約がかかることも基本的にない。そのためチェックインはそのまま認められた。
ところがホテルの部屋で荷物を解いている最中にフロントから一本の電話が来た。
「公安(警察)が来るので、しばらく待っていてください」
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