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(写真:Shutterstock)

 コロナ禍で米中関係はさらに悪化し、貿易戦争の解決は一層遠のいた。前回見た通り、中国は米国製に依存する半導体の内製化を急いでいる。一方、米国も無傷ではいられない。特に企業体力の弱い米中小企業にとっては死活問題だ。だが米中対立の早期解決を求める中小企業経営者の声は、コロナ禍で高まった米国内の反中感情にかき消され、トランプ米大統領の耳には届かない。

 米ニューヨーク州北部のプラスカイは緑豊かな人口2000余りの小さな村だ。秋口には釣り客でにぎわうサーモン川のほとりに、地元のロブデル親子が経営する空気清浄機メーカー「ヘルスウエイ・ファミリー・オブ・ブランズ」はある。赤いレンガ造りの本社兼工場では、従業員たちが手際よく空気清浄機を組み立てている。

 共同創業者として父と名を連ねる社長のビニー・ロブデル・ジュニア氏は「新型コロナウイルスの影響で需要が急増していてね」と切り出した。「感染予防に期待して空気清浄機の引き合いが高まっており、忙しくなった」

 それでもトランプ政権が打ち出した対中制裁関税が足を引っ張り、本来得られるはずの利益を上げることができていない。ビニー氏は自分たちを米中貿易戦争の犠牲者とみなしていた。

今年1月、トランプ大統領は米中貿易交渉の「第1段階」の合意文書に署名した。しかし、米中の関係はその後、悪化の一途をたどっている(写真:AP/アフロ)

キリスト教に基づき経営してきた

 空気清浄のコンサルタントだったビニー氏の父が、ヘルスウエイの前身となる会社を立ち上げたのは1998年だ。高付加価値の空気清浄機を地元プラスカイで作るとともに、安価な空気清浄機は人件費が安い中国・深圳で生産する体制を整えた。それ以来、プラスカイと深圳の両工場で作った製品を米国や中国、日本、その他アジア諸国に出荷してきた。

 2016年春に生産能力を高めた際には深圳ではなく、プラスカイの工場を拡張した。深圳の工場よりも技術力が高かった上、プラスカイの雇用機会を増やし、地域社会に貢献したいという強い思いがあった。ビニー氏は「私たちの会社はキリスト教の信仰に基づいて社会貢献活動に取り組んでいる」と語る。

 中国メーカーから主要部品のモーターを輸入するコストを考慮しても、十分に採算は取れると踏んだ。トランプ政権が発足する8カ月前のことである。

 そのころプラスカイから500km余り南の首都ワシントンではすでに対中観が急速に悪化していた。