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 山梨県中央部の甲府盆地。緑豊かな南アルプスの山々を望む1万7000m2の土地に、工作機械向け部品を製造するエーワン精密の工場がある。5棟ある工場の1つである第1工場には、近く、投資額2億円規模の最新鋭の機械設備5台が入る予定だ。これまで第1工場はその広さに対し、約3割しか埋まっていなかった。今回はその空いている場所に新たな設備が設置される。

 「すでに場所があるから、すぐに機械設備を発注できた。それに、不況のときに購入した方が、価格も安くしてくれるし、機械メーカーの技術屋さんも時間の余裕があるからきちんと仕事をしてくれるんだよ」。1965年の創業以来、エーワン精密を率いてきた梅原勝彦相談役はこう話す。

エーワン精密創業者の梅原勝彦相談役は「人も設備もやや過剰が経営のイロハ」と説く(写真:的野弘路、以下同)

 今回の設備購入はコロナ危機下で決断したものだが、もともと第1工場自体も景気が悪化したリーマンショック直後の2009年に建設したものだ。このように不況で需要が低迷したときに発注をかけると、設備や工事にかける費用は「2~3割程度抑えられる」という。

 設備が入る予定の第1工場は今まで3割しか埋まっていなかったというと、一見、非効率と思われるかもしれないが、この余裕こそが、同社の強さを実現する重要な要素になっている。

 実は同社は、売上高経常利益率が30%を超える超優良企業。自己資本比率は90%以上で、財務基盤も強固だ。売上高は20億円規模ながら、2003年にはジャスダックに株式を上場し、近年は海外投資家からの注目も集めている。

 主力商品は、シャープペンシルが芯をつかむのと同じ原理で加工物を固定する「コレットチャック」と呼ぶ部品で、小型旋盤向けでは国内シェア6割を誇る。他の取扱商品も、市場は小さくても「シェアトップを取れる、利益の出せる」商品に絞り込んで、強い経営体を構築してきた。

工場稼働率の基準は「7割」

 これだけの高収益企業であれば、すべてにおいて効率をとことん追求して、無駄などどこにもないのだろうと想像したくなる。ところが、効率を求める努力は怠らないものの、随所に余裕を持たせて、いざというときにも柔軟に対応できるようにしている。これがエーワン精密の強さの秘訣である。

 工場のスペースに余裕を持たせるのは前述した通りだが、コロナ禍の状況で設備投資を決めたのは、稼働率の低い時期だからこそ、新規設備を設置したり、工場内レイアウトを変更したりできるというメリットもある。

 既存の設備の稼働率についても、常に100%は目指さず、余裕を持たせて7割を基準にしている。梅原氏は理由について「設備は常にやや過剰に持ち、顧客の急な要求に応じられるようにするため」と説明する。

 梅原氏によると、同社の月間の売上高は需要が最も高まるときで約1億8000万円。そのうち3000万円ほどが「やや過剰」分に相当し、月間売上高が1億5000万円程度だと「社員にとってはちょうどいいくらいになる」。

「値下げ? できません」

 設備を「やや過剰」にしてまで、急な要求に応えようとするのは、エーワン精密の最大の強みである超短納期を実現するためだ。たとえば、コレットチャックは、他社なら納入まで1~2週間かかるが、エーワン精密なら早ければ翌日に納入できる。どこよりも早く納入できれば、他社との競争で優位に立つことができるし、顧客とも対等な価格交渉が可能になるわけだ。