エーワン精密の主力商品であるコレットチャック。小型旋盤向けで国内シェアトップを誇る
エーワン精密の主力商品であるコレットチャック。小型旋盤向けで国内シェアトップを誇る

 「もう少し価格を下げてもらえませんか」。顧客である売上高数千億円規模の大手企業の担当者がそう言うと、エーワン精密の受注担当者は何のためらいもなく次のように言って電話を切った。「それはできません」

 今から十数年前のこと。相手先の大手は、あの永守重信会長が率いる高成長企業の日本電産。エーワン精密は、その日本電産からの値下げ要求に、毅然とした態度を取った。

 そんなふうに精神的な余裕を持って、大手にもの申せるのは同社ならでは強みがあるからにほかならない。「短納期や品質など相手に与えられるメリットがあってこそ」と梅原氏は言う。そうした強みを背景に、同社は長年、不況期に求められることが多い値下げには一切応じない姿勢を貫いてきたのだ。

 受けた注文のうち6割程度は、エーワン精密側の見積価格が通っている。言い換えれば、残りの4割は価格で折り合えず、取引が成立しなかったということだ。だが、エーワン精密側は適正価格を提示しているとの認識で「高くはない」(梅原氏)。典型例が、機械を構成する部品である「カム」と呼ぶ部品で、もう50年以上、価格を変えていないという。

約100人の従業員は全員が正社員

 急な需要に応えられるように設備を「やや過剰」にしているのに合わせて、それらを動かす人員も「やや過剰」にしている。多くの企業経営者は、不況になると余剰人員を削減したくなるはずだ。だが、エーワン精密の考え方は正反対だ。

 好況になって需要が高まったときのために余裕を持たせて人員を抱えておく。もちろん人員削減には着手しない。さらに、約100人の従業員は全員が正社員だ。「せっかく育てた社員たちを雇い続けなければ会社にとってマイナスになってしまう」というのがエーワン精密流の考えなのだ。

 ただ、そんなエーワン精密も、コロナ禍における需要の低迷は避けられなかった。3月に1億6000万円あった売上高は、4月には前月比で約1割減、5月にはさらに2割以上落ちこんだ。それでも、梅原氏は「この状態が10年続いても大丈夫」と動じない。

 もちろん、強固な財務力がその自信を裏打ちしている。だから人や設備を「やや過剰」に抱えることができ、それが収益性を高め、財務基盤がさらに強くなるという好循環を生んできた面も大いにあるだろう。

好況時の準備をするのが不況時

 梅原氏は「不況の次には必ず好況がやってくる。好況になれば仕事がたくさん来るので、それに応じる準備をするのが不況のときだ。忙しくなってから準備し始めても遅い」と話す。

 やがて来る商機を逃すまいと、不況のときこそ爪を磨く。人や設備に余裕を持たせることで、超短納期という「武器」を手にし、大手と対等に渡り合う心のゆとりも生み出す。好不況の波にも左右されず、どんなときにも柔軟に対応できるようにする、絶妙なさじ加減による「やや過剰」の経営がエーワン精密を支えている。