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 東京都内の保育園で保育士として働いている山下明代さん(仮名)は、園長からその話を聞かされたとき、耳を疑ったという。今年4月末のことだ。

(写真:PIXTA)

園長:「休園中に山下さんが休んだ日の給与は出るかどうか分かりません」
山下さん:「えっ、そんな…。なぜそうなるのですか」

 山下さんの保育園は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて4月7日に国が緊急事態宣言を出した直後の同9日から、宣言が解除された5月末まで休園した。その間は警察官など生活を支える人達の子供だけを預かり、保育士の一部が交代で勤務することになった。そのため保育士は週に2日程度の出勤となり、その他の日は休みになった。この休日分の給与が出ないかもしれないと言い渡されたのだ。

 山下さんは派遣会社に登録して、この保育園で働いている。立場は弱い上に突然の給与削減話に“動揺”した。給与を減らされれば、生活にも影響するからだ。

 その後、山下さんは働く人の支援団体、総合サポートユニオンに相談して保育園を経営する社会福祉法人と交渉を始めた。この社会福祉法人は、当初労働基準法で定められた本来の給与の6割を支給するとしたが、「思い違いがあった」として結局最終的には全額になったという。ただ、今度は派遣の契約更新を止める申し出をされ、厳しい局面に立たされている。

世界の就労時間は14%減

 新型コロナは世界で雇用を直撃している。国際労働機関(ILO)は6月30日、世界の4~6月期の就労時間が2019年10~12月期に比べ14%減ったと発表した。5月下旬の予測(10.7%減)よりも減少幅が広がった。

 外出制限などロックダウン(都市封鎖)が長期化し、自宅待機などを強いられた労働者は多い。日本でも緊急事態宣言の中で、外食やホテル、小売りなど多くの業種で休業が長期にわたって続いた。収入を絶たれた企業が経営不振に陥り、破綻するケースが急増。東京商工リサーチの調べによると、感染が本格化した今年3月から6月29日までで計286件(負債額1000万円以上)にも上った。

 破綻に至らないまでも、派遣などの雇い止めや解雇などが増えている。国内の5月の完全失業率(季節調整値)は2.9%と前月比0.3ポイント悪化し、完全失業者数は197万人と同19万人増えた。クレディ・アグリコル証券の森田京平・チーフエコノミストの推計では、失業率は今年4~6月期には3.5%に急伸する可能性があるという。「外食やホテル、小売りなどサービス産業はもともと、女性の非正規労働者が多く、雇い止めなどで生活が脅かされる結果になった」(大沢真知子・日本女子大教授)。5月の非正規労働の雇用者数は前年同月比61万人減った。冒頭のようなケースが広がっていることが想像される。

 深刻な人手不足に悩んできた日本ですら始まった雇用の調整。世界に目を向けると、欧米はさらに深刻な状況だ。米国の失業率は今年4月にそれまでの4%前後から14.7%に跳ね上がり、5月も13.3%だ。

 ただ、本当に厳しくなるのはむしろこれからだろう。米国では「新型コロナの影響で就業意欲をなくし求職活動をしていない人」や「常用雇用を希望しながらパートなどで働く人」が急増している。これらの人達は、失業者には算入されないが、常用雇用の外側にいる。森田氏はこうした人達を含めて考えた今年5月の「失業率」は21.2%に達すると試算する。水準は大きく違うが、状況は日本も似ている。休業者数は同4月、597万人に達し、そのうち約7%が5月に職を失い、同月の休業者数はなお423万人に上っている。