全4427文字

新型コロナウイルスは、市場原理と競争本位で膨張してきた資本主義の限界をいや応なく知らしめた。低成長を前提にした世界で資本主義はどう変化し、持続していくべきか。社会課題の解決を「もうけ」に換える「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」が1つの答えになりそうだ。

 今春、スウェーデンのアパレル大手H&M(ヘネス・アンド・マウリッツ)のサステナブル・コレクションに、伊藤忠商事の再生素材「RENU(レニュー)」が採用された。RENUは工場で生産時に出た生地の切れ端や古着を、分子レベルまで分解・再重合してつくる再生ポリエステル繊維だ。

伊藤忠商事の再生素材RENUは、H&Mのチュールトップ(写真左)に採用された

 一般的なリサイクルポリエステルは、使用済みペットボトルを物理的に溶かして糸に仕上げる。RENUの生産工程は通常のポリエステル繊維と重なる部分が多い。染色や張り、加工のしやすさで従来の再生ポリエステル繊維より質が高いという。また、食品メーカーが使用済みペットボトルの再生に乗り出しており、将来的に衣料品に回る分が制限される可能性がある。RENUは「繊維から繊維」への再利用が可能だ。

 日本ではカジュアル衣料のアダストリアやファミリーマートがプライベートブランドの衣料品で採用しているほか、ファーストリテイリング傘下の「ジーユー」が今年の秋冬モデルに活用する予定で、急速に浸透し始めている。

アダストリアが今年の秋冬に展開するジャケットの中綿にRENUを採用した

 RENUも最初から順風が吹いていたわけではない。昨年6月、メーカーやショップ、繊維業者向けの初の展示会では、「今はサステナブルよりおしゃれ」とばっさり切り捨てられてしまったが、「昨年秋ごろから急に顧客の態度が変わった」(伊藤忠の降矢安那氏)。なぜ急激に風向きが変わろうとしているのか。

 1つには、2019年秋のファストファッション大手の米フォーエバー21の経営破綻がありそうだ。ミレニアル世代といわれる若い層は、使い捨てを好まず、中古流通にためらいがない。実際の主因は競合他社との競争激化だったとしても、「『大量生産・大量廃棄』の代表格であるファストファッションの終わり」を印象づけた。

 同時期にユニクロを運営するファーストリテイリングが買い物袋を紙製に切り替えると発表したことも重なり、業界全体に「構造転換の大波がきている」との意識が広まった。

 グローバルブランドは日本に先行している。H&Mは「遅くとも2030年までに再生ポリエステルなど、持続可能な素材やリサイクルされた資源だけを使う」と宣言。アディダスも24年までに、ポリエステルを全てリサイクル素材へ移行することを目指すなど、大手ブランドは次々と高い目標を掲げている。伊藤忠の降矢氏は、「サステナブルな素材を使っている商品が選ばれるというよりも、持続可能性が高いビジネスを展開している企業でないとこれからは消費者や取引先の支持が得られないとブランドは考えているようだ」とみる。

 今までの企業の社会貢献は一般的に、「多少のコストアップや品質のマイナスはあっても環境負荷の小さいビジネスを目指す」というものが多かった。サーキュラーエコノミーが目指すビジネスモデルは、資源の再利用にとどまらずに、「もうけ」を出しつつ社会課題を解決し、持続可能な事業モデルを構築することだ。

 RENUは、世界の繊維工場である中国に製造拠点を置くことで、生地の切れ端を周囲の繊維工場から集めて効率よく活用している。品質もH&Mのチュールトップのようにデザイン性が高い衣料品に使われるレベルに達している。