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失業や格差は誰が生んでいるのか。そして誰が救うべきか。新型コロナウイルスの景気への深刻なダメージは、これまでも議論されてきた企業の社会的責任のあり方をさらに変化させる可能性がある。グローバル化によって一気に進んだ「株主至上主義」を軌道修正し、従業員などより幅広いステークホルダーに向き合う動きが広がっている。

米ウォルマートの株主総会では、従業員の代表を取締役に選任すべきだという提案が出された(写真:Bloomberg / Getty Images)

 6月3日、米ウォルマートのバーチャル株主総会。20年近く同社で働いているという株主が、「Policy to Include Hourly Associates as Director Candidates(時間給従業員を取締役候補に取り入れる方針)」と題した株主提案を行った。「毎日、ウォルマートの従業員は会社の長期的な利益貢献にコミットしている。我々には家族、地域社会、株主のために取締役会の席が必要だ」として、ほかの株主に賛同を訴えた。

 米通信大手AT&Tが4月に開いた株主総会でも、「従業員代表の取締役を選任すべきだ」との株主提案が掲げられた。従業員出身者が取締役の指名や報酬に関わる委員会に加われば、従業員との報酬格差の是正や、過度な株主還元策の歯止め、従業員へのハラスメント防止につながるとの狙いだった。

 「労働者代表を企業の経営陣に加えよ」との主張は、2020年の米大統領選に名乗りを上げた左派議員も唱えている。民主党の大統領候補をバイデン前副大統領と最後まで争ったバーニー・サンダース上院議員は、「労働者に取締役会の席を与えて、富を労働者の手に戻す」などとして、主要企業を対象に、従業員側の保有株式割合が20%に達するまで毎年2%の株式を提供し、取締役会の45%は従業員から選出することを求めている。同じく民主党左派で大統領選候補だったエリザベス・ウォーレン上院議員も米国の大企業の取締役メンバーの40%以上を従業員から選出させるプランを訴えた。

 これらが発表された当初は「非現実的」と切り捨てられてきたが、民主党の候補者争いでサンダース氏らが一定の支持を集めたことや、新型コロナウイルスで「格差」が強く意識される今、支持が広がる可能性はある。米国の労働組合の調査では、2018年時点で主要企業のCEO(最高経営責任者)の報酬は労働者の287倍に上るなど、格差は深刻なレベルに達し、「分配」のあり方の見直しは必要となっているからだ。

 ウォルマートなどへの提案は会社側に「既に従業員からフィードバックを得るチャネルはある」などと反対され否決されたが、米国を代表する企業が「最も身近なステークホルダー(関係者)」といえる従業員への向き合い方を見直すように迫られているのは確かだ。