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新型コロナウイルスの感染拡大は資本主義の在り方にどのような影響を及ぼすのか。「世界経済はここ30年余り、モノの生産を中心にした態勢から消費でいえばコトに移り、それに伴って投資も労働も大きく変化した」。こう指摘する諸富徹・京都大学大学院教授は、それを資本主義の非物質化と言い、世界経済の長期低成長の原因だとする。コロナ禍は、それを加速する。資本主義はこの後、どう変化するのかを聞いた。

諸富徹[もろとみ・とおる]氏 京都大学大学院経済学研究科教授。1998年、同研究科経済政策専攻博士課程修了。同年、横浜国立大学経済学部助教授、2002年、京都大学大学院経済学研究科助教授。同准教授を経て10年から教授。専門は財政学と環境経済学。著書に『環境税の理論と実際』(有斐閣)、『資本主義の新しい形』(岩波書店)など(写真:太田未来子、以下同じ)

新型コロナウイルスの感染拡大により、IMF(国際通貨基金)は今年の世界の実質GDP(国内総生産)成長率が前年比マイナス4.9%となり、2008年のリーマン・ショック時を超える落ち込み幅となると予想しています。世界経済に大きなショックを与えるコロナ禍が、資本主義自体の変化を強く加速する可能性があると見ているそうですね。

諸富徹・京都大学大学院教授(以下、諸富氏):世界経済は日米をはじめ、ここ6、7年長く“好調”が続き、中国もかつてほどではないにせよ高い成長を続けてきました。だから、新型コロナのショックの大きさは強烈な印象を与えていると思います。ですが、実際のところ、世界経済はここ30年余り、長期的に低成長へ移ってきました。

 例えば、先進主要国であるG7の実質GDP成長率は1980年代以降、特に90年代から明らかに長期低下傾向になっています。80年代の同成長率は年率3~5%の間を動いていましたが、90年代には3%前後に低下し、2008年秋のリーマン・ショック後はほぼ2%未満に低迷しています。

主要国経済の成長力は長期的に低下している
G7の実質成長率の推移
出所:UBS証券 単位:%
注:2020年は1~3月期

 では、なぜ先進国経済は長期的に低下しているのでしょうか。13年11月のIMF経済フォーラムで元米財務長官でもあるローレンス・サマーズ米ハーバード大学教授は、世界経済の成長率の長期的低迷の原因を2つの点で指摘しました。所得のうち、貯蓄に回す部分の比率である貯蓄性向が上昇していることと、民間の投資が不足していることです。

貯蓄性向が高まり、企業の投資は停滞した

人々が貯蓄に走り、一方で企業は投資をしなくなったと。

諸富氏:貯蓄性向が上昇した理由は2つあると思います。1つは、マクロ的に見た所得と富の分配が不平等化しているためです。このため、中低所得者層の実質所得が低下しました。この層は所得のうち消費に回す比率(消費性向)が高いので、結果として消費の減退につながりました。

 そしてもう1つは、社会が高齢化し、長い人生に備えるために人々が貯蓄するようになったこともあります。貯蓄が増えれば、消費に回る部分が減りますから、経済成長にはマイナスになります。程度の違いはありますが、高齢化は日本だけの現象ではないのです。

 それと企業の投資減退ですが、これは、先進国では2000年代以降、企業(非金融法人)が資金の借り手側から貯蓄を積み上げる側になる傾向を強めています。G7で見ると、フランスとイタリアを除く米国、日本、カナダ、英国、ドイツの企業が貯蓄超過に転じているのです。