読者の方々から調査してもらいたい事柄を募り、記者が取材を進める本コーナー。とはいえ、まだスタートしていない段階では質問の募集をしておらず、取材の題材が見当たらない。どうしたらいいものかと頭を巡らせていたところに、同僚記者が声を掛けてきた。「最近、バナナ高くない?」。早速調べてみた。

コロナでバナナが値上がり?なぜ?

 そもそもバナナの値上がりは起きているのか。まずは全国展開する大手スーパーの広報部門に問い合わせてみた。

バナナは高くなっているんですか?

大手スーパー広報担当者:いえ、そういう話はちょっと現場から聞いていないですね。

そこまで影響は出ていないと。

広報担当者:うちは一定の期間で契約を結んでいるので、短期の価格変動は反映されにくいのかもしれません。

 それではより小規模な販売店であれば、価格の変動に敏感なのではないか。そんな考えのもと、都内の下町にある商店街に向かった。

 フィリピン産のバナナを1房200円で販売していた青果店の店主に状況を聞くと、こんな答えが返ってきた。「倍まではいかないにしても仕入れ段階で4、50円は値上がりしているよ。理由は分からないけど、輸入物はよく上下するからね」

都内の商店街の青果店で販売されるバナナ。通常よりも数十円高くなっているという
都内の商店街の青果店で販売されるバナナ。通常よりも数十円高くなっているという

 やはり少なくとも一部ではバナナの値上がりが起きていたようだ。先ほどとは異なる別のスーパーに問いあわせてみると、4月後半からは一時的に「相場は1.5倍強になっていた」との証言も。東京中央卸売市場のバナナの取引量と平均価格の推移を見てみると、2019年12月をピークに取引量は減少傾向にある中で、価格は確かに上昇していた。

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 それでは、価格の上昇は取引量の減少によるものなのか。また、取引量の減少は新型コロナの感染拡大と関係はあるのか。

一大産地で移動制限

 バナナを扱う国内の商社などでつくる日本バナナ輸入組合に問い合わせると「新型コロナによる供給量の減少は確かにあった」と話す。同組合によると、国内に流通しているバナナの8割以上を占める産地であるフィリピンでは、感染拡大に伴って都市間の移動制限が行われ、輸送網が滞ったり、収穫などに必要な人手が集まらなかったりした。一時期は、日本の輸入業者の間でも供給量が大幅に減少するという見方が広がったという。

 ただ、現地の生産者団体の働きかけなどによって、移動制限の緩和措置が行われるなどし、4月のフィリピンからの輸入量は前年同期比94.9%とそれほど大きな減少は起こらなかった。加えて、フィリピン産の減少を懸念した商社などが中南米などから新たな契約を取り付けるなどし、4月の各国からの輸入量の合計は同96.6%で推移。日本バナナ輸入組合の担当者は「流通量はほぼ前年並みであり、値上がりの主因は輸入量の減少ではない」と指摘する。

需要は1.5~2倍に

 では、なぜ価格の上昇は起きたのか。バナナの取引に関わる複数の業者の話を総合すると、考えられる一番の要因は家庭でのバナナ消費の増加だ。

 「巣ごもり需要の増加もあり、バナナの品薄感が高まった」。輸入フルーツを扱う都内の仲卸業者は、そう説明する。3月以降、新型コロナの感染拡大に伴い学校が一斉休校となり、在宅勤務の浸透によって、日中も自宅で過ごす人が増加。間食も含めて、家庭内で食事をする機会が増え、値段も手ごろで栄養価も高く、手間もかからないバナナに需要が集まったとの見方だ。実際にこの仲卸業者では取り扱うバナナの量が例年の1.5~2倍になっていたという。

値崩れが始まっている

 それでは今後、バナナの価格はどうなっていくのか。先の仲卸業者は「値崩れがもう始まっている」と危惧する。理由は消費者の飽きによる需要の鈍化だ。

 新型コロナの国内での感染が一段落を迎える中で、通勤や通学が再開され、家で過ごす時間は減少し、バナナを消費する機会は減少している。加えて、消費者の飽きからくるバナナ離れも徐々に広がる。夏場が近づき、国内産のフルーツも店頭に多く並ぶ時期になってきた。「暑くなると消費者は、みずみずしいものに目が行く」(都内の仲卸業者)といい、消費はさらに鈍化するとの見方も強い。

 バナナの供給は春先の品薄への対応の反動も出てきている。フィリピン産の輸入量が前年並みに戻ってきた一方で、商社などが手配してきた中南米産の輸入量が前年を上回っているままなのだ。

 日本バナナ輸入組合によると、中南米産の輸入量は5月時点で前年同期の147%だったが、フィリピン産が前年並みに戻った6月も120~130%となる見込み。各国からの輸入量の合計は前年比を上回る可能性もある。ある業者は「間に合っているからといって、すぐには輸入を止められない」とさじ加減の難しさを語る。

 新型コロナで需給バランスが揺れ動くのはマスクをはじめ珍しくはないが、バナナもまた新たな局面を迎えている。

本コーナーでは読者の方々から調査してもらいたい事柄を募集しています。ご意見と合わせ、コメント欄にお寄せください。可能な限り、全力で取材いたします。

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