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 「非正規社員によって成り立っている職場なのに、いざとなったら立場の弱い者を切り捨てる。こんな会社だったなんて……」。あるサービス業で非正規社員として働く40代のA氏は、無念の表情でこう語る。

 会社の従業員は9割以上が非正規雇用だ。それでも社員教育制度をはじめ非正規スタッフへの会社のケアは充実しており、将来に対する不安は多少あるものの、A氏は「それなりに働きがいのある会社」と思ってきた。ところが新型コロナウイルスの感染拡大を機に、会社への不信感が一気に芽生えている。

二転三転する「払わぬ理由」

 コロナ禍での営業時間の短縮で、会社から出社しないよう求められたのは3月に入ってから。当初は有給休暇を活用したが、4月以降、店舗自体が休みになり、出社のめどが立たなくなる。残りの有休が減る中、A氏は休業補償に頼るしかないと覚悟した。  

首都圏を中心に臨時休業が相次いだサービス業だが、会社の対応に不満の声も多く出た(写真はイメージ、共同通信)

 労働基準法26条では、会社都合の休業の場合、残業代や通勤手当も含めた直近3カ月分の平均賃金の少なくとも60%を支払うことが企業に義務付けられている。

 ところが会社に確認すると、「非正規には休業補償が出ない」。同業他社では非正規にも補償が出ている事実を話すと、「今回のコロナ禍は“会社都合の休業”ではないから労基法に該当しない」との説明に変わった。

 同僚に聞けば、正社員には出る予定だという。その矛盾を突くと、今度はメールを含めて反応が途絶えた。「非正規の人たちに理由を通達する必要はない」との指示が幹部に通達されたとの噂が広がった。

 A氏の手取りは通常ならば月25万円程度だが、毎月の固定費は約18万円かかる。4月は有給休暇分の4万円のみ。別でアルバイトをして急場をしのいだが、それもいつまで雇ってもらえるか分からない。不安を募らせたA氏は4月下旬、外部の労働団体に相談し、団体が男性の代わりに交渉を求めることになった。