
「政府からお話を頂いたのは4月2日。『お引き受けします』と即答しました」。600近くのホテルを展開する日本最大規模のホテルチェーン、アパホテルの元谷芙美子社長はこう話す。
同社はこの春、医療崩壊を防ごうとする政府の要請に応え、新型コロナウイルス感染者のうち軽症や無症状の人の一時的療養先として、自社のホテルを提供した。
受け入れ先となったのは、約2300室の旗艦ホテル「アパホテル&リゾート横浜ベイタワー」や、竣工はしたものの開業前の「アパホテル&リゾート両国駅タワー」を含む、全国9棟のホテル。ピーク時の5月上旬から中旬にかけては、1日あたり100人超を受け入れ、医療崩壊の食い止めに縁の下で一役買った。
勇気ある決断にうがった見方
1月に中国・武漢市からチャーター機第1便で帰国した日本人を迎え入れた千葉県の「勝浦ホテル三日月」に次ぐ勇気ある決断と映る。が、元谷氏の英断に対して、世間ではうがった見方も目立った。
「行政による借り上げは、(ホテル側には)ばかにならない収入になる。コロナ禍でインバウンド需要が蒸発し、自粛で一般客も減少した今は、収容先に立候補した方がもうかるはずだ」。例えばそんな見方だ。

だがこれは、実情と異なると元谷氏は強調する。実際、コロナ禍でアパホテルの稼働率は最悪期に全国平均で3割程度(7割減)まで落ち込んだものの、感染者の受け入れには想像以上に様々な困難が伴う。
部屋単位ではなく1棟丸ごとを貸し出すため、既に予約した客がいれば説明と予約取り消しの作業が必要になる。ホテル内のテナントの休業補償も欠かせない。「横浜ベイタワー」では、4軒のレストランの休業補償も用意。近隣住民への説明も欠かせず、従業員の感染防止策も不可欠だった。
さらに風評リスクもある。「感染者が滞在していたホテル」といった風評もあるが、それだけではない。過激にも受け取れる数々の情報発信や1泊1万円が時には3万円にもなる「ダイナミックプライシング」と、何かと話題のアパホテル。そのトップである元谷氏は奇抜なファッションに身を包み、自らホテルのPR役を買って出るという、何かと目立つ経営者でもある。
受け入れ先に名乗り出ることで、「スタンドプレー」「政治的な思惑」といった根も葉もない噂もSNSに書き込まれかねない。そんなリスクも隣り合わせだった。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り1188文字 / 全文2175文字
-
【春割】日経電子版セット2カ月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【春割/2カ月無料】お申し込みで
人気コラム、特集記事…すべて読み放題
ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能
バックナンバー11年分が読み放題
Powered by リゾーム?