
前回の記事では、GDP(国内総生産)低迷による失業率上昇の予測に伴う自殺者数の推計を示した。 総務省が発表した6月の失業率(季節調整値)は2.8%。完全失業者数は195万人で、前年同月と比べて33万人増。5カ月連続の増加となった。過去の傾向を踏襲するとすれば、自殺への懸念は確実に高まっていると言えてしまうだろう。
こうした危機に対して、どう立ち向かっていけばよいのか。NPOや行政などと連携しながら遺族の支援に当たる「自死遺族支援弁護団」のとりまとめ役として活動し、労働相談を受ける弁護士法人まちだ・さがみ総合法律事務所(東京都町田市)の和泉貴士弁護士に聞いた。
経済データから見れば、自殺者数が増加して再び3万人をこえてしまうのではとの予測が出ています。今後をどう見ているでしょうか。

和泉貴士弁護士(以下和泉氏):以前から、失業者が増えると、自殺者が増えると言われてきた。リーマン・ショック以降、いろいろな形で自殺対策が行われてきた。それがどれだけ機能してきたのかが今こそ問われているのだと思う。
具体的には自殺の原因とされる「経済的要因」と「孤立」に対する対策に、社会が耐性を身につけてきたかどうかだ。
1つ目の自殺の原因となる「経済的要因」に対する対策というと、今回の新型コロナ対策でも取り入れられている給付金や助成金などによる経済支援策が当てはまる。 破産手続きをしたり、解雇の無効を争って収入を維持したりするという弁護士の仕事も、どちらかと言えばこちらの対策だ。
もう1つの対策が「孤立」への対策だ。自殺者自身は社会的孤立を抱えているケースが多い。自殺対策基本法や、2007年以降の自殺総合対策大綱は、経済的要因のみならず、自殺の原因となる孤立への対策も総合対策として行うことを求めている。行政や民間機関が設置する相談窓口の設置は、孤立に対する政策としての面が大きい。
まず前者の経済的要因に対する政策について、法律家の観点では具体的にどのような対処法が可能でしょうか。
和泉氏:借金の返済ができなければ破産や任意整理などの手段を通じて生活再建を図る。 (整理解雇の4要件を満たしていないような)違法解雇によって収入が途絶える危険のある状態であれば、訴訟を起こして解雇無効を争い、解雇撤回や金銭解決によってある程度の収入を維持することができる。
精神疾患などがあれば、傷病手当金や障害年金、生活保護など社会保障制度を組み合わせて生活できるように考える。
労働者が自死して遺族の生活が困窮している場合には、証拠保全など裁判手続きを通じて証拠を収集し、労災申請を行い遺族補償給付の支給を受ける。
このように、弁護士や司法書士、社労士などの法律家は、法律を用いて生活困窮者の経済面での不安を一定程度解消できる知識や技術を持っている。
整理解雇装う、違法解雇疑いのケースも
今回の新型コロナについても、ある程度規模が大きい会社で、実質的な理由は社内の人間関係や成績不良が理由と見られるにもかかわらず、表面上は会社の売り上げ減少を理由として整理解雇を進めるケースをいくつか扱っている。
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