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(写真:PIXTA)

 経済状況の悪化は、自殺者の増加をもたらすといわれる。しかし、この連載の初回で見たように、警察庁が5月に公表した4月の自殺者数は、前年同月比19.7%減の1457人と大幅に減少していた。閉塞感が漂い、急激な景気減速が懸念される中で、自殺者数が減ったのはなぜなのか。

 上記自殺者数の発表時には、「テレワークやオンライン授業などによって職場や学校での対人ストレスが軽減したことが原因」「家族と過ごす時間が増えてストレスが癒やされたことが原因」などの説が報道された。これは本当なのか。

 りんかい月島クリニック(東京・中央)など都内2カ所でメンタルクリニックを運営し、一部上場企業などで産業医を務めた精神科医の吉田健一氏は「メンタル不調で通院している人から話を聞くと、在宅勤務で周囲の目を気にする必要がなくなったことや、営業職などでは業務負荷が減ったことで、新型コロナの影響で全体的な負担は『楽になった』と話す人も多い」と語る。自殺と関連が深いと言われるうつ病患者にとっては「特に会社員層で仕事でのストレスが減少し、症状の悪化を食い止める機会になったと考えられる」と見る。

 精神科医で日本産業ストレス学会理事の夏目誠氏にも聞いた。いわく「仕事関係のストレスは、その半分程度が対人関係によるもの。嫌な上司や同僚の顔を見なくて済むという意味で、テレワークはストレスの緩和に役立っている」「確かに、仕事などのストレスでしんどさを感じている人が自宅で過ごす時間が長くなったとき、家庭環境が良好であれば、家族の絆を再確認して自殺を思いとどまるという効果は一定程度あっただろう」。

 ただ、夏目氏は人間関係の悩みのみの軽減が自殺者数減少の中心的な理由ではないという見方を取る。