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 「新型コロナウイルスは熱に弱く、お湯を飲めば予防できる」「この店には新型コロナウイルスに感染した店員がいる」――。

 コロナ危機が全世界に広がる中、インターネット上には新型コロナウイルスに関する根拠のない数々のデマ情報が飛び交い、深刻な社会問題になっている。こうした誤情報はSNS(交流サイト)を介して瞬時に拡散され、風評被害や買い占めなど実社会に深刻な影響を及ぼしている。3月、イランでは「産業用アルコールを飲めば新型コロナを予防できる」というデマがまん延し、一部の地域でアルコール中毒死する人が続出する事態にまで発展した。

 誤った情報が急速に広がることで社会に悪影響が及ぶ「インフォデミック」が、コロナ禍を契機にこれまで以上に深刻な社会問題として急浮上している。インフォデミックは、「情報(Information)」と、感染症の拡大を指す「エピデミック(Epidemic)」を組み合わせた造語だ。

 このインフォデミックの舞台の1つとなっているSNS。ツイッターやフェイスブックなどのプラットフォーマーたちは、コロナ禍を機に、デマ情報の被害を軽減するために、かつてない踏み込んだ対策を始めた。

「表現の自由」とのせめぎ合い

 誤情報によって利用者が振り回される事態に、フェイスブックやツイッターなどのSNS大手が本腰を入れて向き合うことになるきっかけは、2016年の米大統領選だった。選挙期間中、ドナルド・トランプ氏など各候補の言動や掲げる政策について、「ローマ教皇がトランプの支持を表明した」といった悪質なデマや不確かな情報を基にした投稿がSNS上で大量に飛び交った。

 世論操作や閲覧によって得られる広告収入を目的としたウェブサイトも多数作られ、国民の感情をかき立てる過激なうそがネット上にあふれた。この頃から、扇動的な誤情報を表す「フェイクニュース」という言葉が広まり、社会問題として認識されるようになった。

 しかし、SNSプラットフォーマーたちは、デマの疑いのある投稿を削除するといった積極的な対策は実施してこなかった。検閲を受けずに個人が世界に向けて自在に情報発信できる「表現の自由」こそがSNSの本質的な価値だからだ。

 米グーグルのエリック・シュミット元会長兼CEO(最高経営責任者)はかつて、スマートフォンやSNSなどのネットを手にした個人を、立法、司法、行政、報道機関に続く「第5の権力」と言い表した。表現の自由は、その「権力」の根幹をなす。

削除や抑制、ラベルで警告

 しかし、未曽有の世界的危機であるコロナ禍は、詐欺やポルノなど倫理規定に明らかに違反している一部の投稿以外には不干渉の方針を貫いてきたSNS大手に、大きな方向転換を迫った。予防や治療に関する誤った情報で死者が出るなど、誤情報の拡散が危機を増幅させる構図が鮮明になったからだ。

 フェイスブックは新型コロナの感染拡大が深刻化してきた1月末から、誤った治療法など、身体的危害につながり得る投稿の削除に乗り出した。