「以前は厳しい飲酒チェックがあったはずなのに」──。
九州地方の病院で依存症治療を担当する医師は深刻な面持ちで口を開いた。対象の患者は50代の男性。タクシー運転手だ。新型コロナウイルスの感染拡大によってタクシー利用者が急減し自宅待機を余儀なくされた。その結果、昼間から酒を飲む生活が常態化してしまったという。

運転を仕事とする以上、アルコール摂取に対しては業務上厳しい管理がなされている。その男性にとってお酒はこれまで、あくまでも仕事が終わった後の楽しみだった。ただ、出勤せず、運転もしないとなると、自分に課してきた枠組みが外れてしまった。飲酒量が増え、普通の生活が送れなくなってきたため、病院の門をたたいた。そして、アルコール依存症と診断されて、入院するまでに至った。
東京都、神奈川県、大阪府など7都府県に緊急事態宣言が出されたのは4月7日。その1週間後には対象が全国に広がり、不急不要の外出は制限された。首都圏や関西圏を中心に企業は出社を禁止するなどの対応に追われ、一気に普及したテレワークやオンライン会議は緊急事態宣言が解除された後でも日常の光景となりつつある。依存症のリスクは今後も水面下で広がる可能性がある。
「プレアルコホリック(問題飲酒群)の人の飲酒開始時間が早まり、アルコール依存が心配だという電話での相談が増えた」。こう話すのは、依存症治療で実績のある大船榎本クリニック(神奈川県鎌倉市)の斉藤章佳・精神保健福祉部長だ。精神科病院の窓口がにわかに忙しくなったのは、外出自粛を余儀なくされた生活から1カ月ほどたったころからだ。
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