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日産復活の成否を占う、今後18カ月に投入される12の新モデル。電動化や運転支援といった最新技術なくして反転攻勢は見込めない。長きにわたって掲げてきた「技術の日産」。資本の論理や経営の混乱に翻弄されながらも、開発現場で引き継がれてきたそのそのDNA。危機的状況に陥った今こそ、その真の実力が問われている。

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 国内での登場から4年。日産自動車は電動化技術「e-POWER」を小型多目的スポーツ車(SUV)「キックス」に搭載して今年、タイ市場に投入する。同技術の海外生産は初めてだ。キックスは国内市場にも近く投入される見通しで、新車不足に悩む国内販売の反転攻勢の一翼を担う。

19年のジュネーブ国際モーターショーで世界初公開した、e-POWERを搭載したコンセプトカー「IMQ」

 e-POWERの仕組みはユニークだ。トヨタ自動車やホンダのハイブリッドシステムのように、エンジンとモーターを切り替えながら走るのではなく、エンジンは「発電機」に徹し、電気自動車(EV)「リーフ」にも搭載している大出力モーターのみで駆動する。

 2016年、小型車「ノート」にe-POWERが搭載されて発売されると、ノートはトヨタのハイブリッド車(HV)「アクア」や「プリウス」、ホンダの小型車「フィット」を抜いて、登録車での新車販売トップに立った。直近でも登録車の新車販売ランキングで上位に顔を出す日産車はノートにミニバン「セレナ」と、e-POWER搭載車が占める。燃費性能だけでなく、アクセルペダルだけで加減速ができる新しい運転感覚が一定の評価を得ている。これまでは旧モデルへの搭載が中心だったが、その技術をようやく新モデルと海外市場に展開する段階に入ってきた。

「ちょっとリーフのモデルチェンジ手伝ってよ」

 e-POWERの開発に携わったパワートレイン・EV技術開発本部パワートレイン主管の仲田直樹氏。その前はエンジン設計部門、モータースポーツ向けの自動車を作る子会社NISMO(ニスモ)などに所属し、「GT-R」のエンジン開発にも携わっていた。先輩から声をかけられた仲田氏はリーフの開発チームへと移り、並行して開発が始まったe-POWERにも09年から携わるようになった。

e-POWERの開発に携わった仲田直樹氏

 当時、HVではトヨタ自動車やホンダの後じんを拝していた。販売サイドや経営側からのプレッシャーは「すさまじいものがあった」(仲田氏)という。しかも開発過程では技術を追い求めようとする開発陣の前に立ちはだかる「空気」もあった。

 「技術は外からタダでもらってくるのが一番いい。次が外から買ってくること。自ら投資して開発するのは3番目。物事はこの順番で進むべきだ」。日産と仏ルノーの技術開発機能の統合が進み始め、当時社長だったカルロス・ゴーン氏は社内でこう発言をしたという。日産が11年~16年度に掲げた中期経営計画「パワー88」で目指したのは、規模と利益の両面を追う経営。目先の成果を優先し、先行投資が必要な技術を軽視する風潮が開発現場を悩ませていた。

 トヨタと同じ方法では勝ち目はない。そこでe-POWERでは独自のエンジンやモーターを開発するのではなく、リーフの使っていたモーターやインバーターを使うことでコストや量産までにかかる時間の短縮につなげた。

 量産にこぎつけたe-POWERを搭載したノートだが、仲田氏がその後も気になったのは運転中のちょっとした「走り味」だ。e-POWERではエンジンの回転数が2400回転と一定のためドライバーの「加速感」が薄い。「この違和感が不安だった。だから、車によって走り味を変える必要があった」という。

 ノートの次にe-POWERを搭載したセレナでは、速度60キロ以上の場合に2400回転にするなど回転数を変え、e-POWER独特の仕組みが起こす走りの違和感をなくそうとした。

 「e-POWERはまだ進化の途中」と話す仲田氏の頭の中にあるのがGT-Rのエンジン開発の経験だ。「GT-Rでも初代、2代目、3代目とそれぞれに批判はあった。『らしさ』は自分たちだけではなく、乗ってくれた周りが決めてくれる」と仲田氏は話す。