6712億円の最終赤字──。5月28日に日産自動車が発表した2020年3月期の連結決算。4月末時点で発表した見通しでの最終赤字幅は1000億円程度だった。しかし結局赤字幅は大きく膨らみ、カルロス・ゴーン元社長が日産リバイバルプラン(NRP)を打ち出した00年3月期の6843億円に並ぶ規模となった。
新興国を中心に規模を追った「ゴーン経営」からの決別。内田誠社長兼CEO(最高経営責任者)はそう宣言したが、ゴーン氏のようにV字回復を果たせるとは決して言わなかった。日産復活には地道にブランド力を高める取り組みが必要なためだ。
ではゴーン氏による日産再生と今回の構造改革では何が違うのか。「ゴーン氏は外科手術をした。内田社長の施策は内科的治療」と評するのはナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹氏だ。確かに今回のプランで閉鎖するのは、スペインのバルセロナ工場と、そもそも稼働していないに等しかったインドネシア工場の2拠点。その他の工場でも設備などの減損損失を計上しており償却費は減るが、工場が稼働し続ける限り現金流出は避けられない。村山工場など5工場を閉鎖したNRPとはリストラの規模が異なる。

今回、日産は自動車事業のフリーキャッシュフロー(純現金収支)が黒字に転換するのは22年3月期の下期と見込んでいるという。現状、自動車事業には1兆円余りの現金がある。NRP前、2兆円を超える自動車事業のネットキャッシュの赤字を抱え、5000億円余りの借り換えに苦しんで仏ルノーに頼った状況とは違う。
しかし、「リーマン・ショック時にトヨタが1カ月間で1兆円の現金流出を許した」(中西氏)というのが、固定費が重い自動車産業の現実だ。日産は今年4月以降に7000億円超の資金調達をし、1兆3000億円のコミットメントライン(融資枠)は未使用としたが、早晩使わざるを得なくなるだろう。銀行借り入れに頼ることで財務体質の悪化は避けられない。
1兆3000億円の融資枠とて、経営の安定を約束するものではない。NRP当時は土地や有価証券といった「含み益も現金化してV字回復への仕込みをしていた」(日産OBで早稲田大学ビジネススクール元教授の法木秀雄氏)状況だった。特別利益の計上で日産の復活を印象づけたゴーン氏の戦略が世間に受けたことに加え、「米国のスカイラインや日本のエクストレイルといった売れるクルマへの仕込みがあった」(当時を知る日産元幹部)。本業でキャッシュが入ってくる状況はあったのだ。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り1194文字 / 全文2238文字
-
【春割】日経電子版セット2カ月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【春割/2カ月無料】お申し込みで
人気コラム、特集記事…すべて読み放題
ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能
バックナンバー11年分が読み放題
Powered by リゾーム?