:専門家、研究者にとっては考えるべき、悩むべきことが多々あったとしても、そうでない人にとっては、悩んだとしてもあまり意味がないからです。どうして意味がないかと言えば、まだ分かっていることがあまりに少なくて、ほぼ仮説や予想でしかないから、というのが1つ。

―― 専門家はあらゆる可能性を考えておく必要があるけれど、普通の人がそこまでやっても意味はないと。

:そして、「現在のところ、対策は特に変わらないから」というのが、より重要なポイントです。変異ウイルスについて知るべきことは、約1年前にYさんにお話しした記事に、大事なことは書いてあるんですよね。

―― そんなこと言うと本が売れなくなるんですが(笑)。ああ、もちろんこの記事よりもアップデートして大幅に加筆してますので。

:少し専門的になりますが、ウイルス学的な観点からみますと、今回のオミクロンについては、とにかく気になるのは伝播性(うつりやすさ)の上昇の可能性と、変異がちょっと多いかなということ。多いと言っても3万もある塩基のうちの50カ所程度なんですけれどね。そして、50カ所のうちの32カ所がスパイクタンパク質(Sタンパク)に集中している。

―― Sタンパクは、新型コロナウイルスがヒトの細胞にくっつくところでしたね。そこに取り付いて妨害するのが、ワクチンで免疫系が作る「中和抗体」で。そのSタンパクに変異がたくさん起きると、ワクチンの効きが悪くなるのではないか、という。

:そう。オミクロンには他にも今まで見つかった変異ウイルスに見られるものを含む、いろいろな変異が入っていて、それがワクチンの効果にある程度影響する可能性がある、まぁ「程度」を入れて言えば、その可能性が高い、とか、伝播性・病毒性にも関係するんじゃないか、ということで心配されているわけですね。

不安につけ込む「トンデモ」報道がすでに発生

―― そう聞くとやっぱり心配ですよね。

:でも、一方で、感染を防止するための考え方は変わらないわけですよ。まずは基本的対策を徹底すること。

―― 3密(密閉・密集・密接)回避に換気、マスクに手洗いうがい、栄養と睡眠。そしてワクチンですか。

:そう。まず、どんなに感染しやすくなっていようが、基本的に新型コロナの感染経路は、従来言われるところの「空気感染(飛沫核感染)」をメインにするわけではないので、飛沫や滞留する飛沫を防ぐために、狭くて空気がよどんでいて人がたくさんいる空間を避けてマスクをしていれば感染リスクは大きく下げられる。手洗いで接触感染のリスクも減らせる。栄養と睡眠は、自分の身体の免疫系の機能を正常に保つために重要です。ワクチンも、引き続き接種率を上げていくことが重要ですね。

 でも、すでに「閉じられた向かいの部屋にいた人から感染」だからこれは空気感染だ、とか、「感染力」が大幅に上昇しているんだ、とか、わけの分からないことを言い出す大手メディアが登場しているんですよね。

―― 見ました。本当だとしたらとんでもないことですね。

:いや、変異ウイルス・デルタが出てきたときも「すれ違っただけで感染」って、散々騒いだ放送局なので、まったく成長しないなとむしろ感心しました。学び、成長することよりも、自分を変えず意固地になるあたりに、ですけれどもね……。

―― 騒ぐのがお好きなんですかね。で、ワクチンですが。効きが悪くなる可能性があるのは心配ですね。

:これは本でも、というか前からずっと言っていますけれど、変異ウイルスに対して、今あるワクチンの効果が下がるとしても、0%になることはまずないでしょう。ワクチン接種で作られる抗体による中和能が数十パーセントとか下がるということはあると思います。けれど、とりあえず「だから何だ」なんですよね。それでも抗体の量はワクチンを打つ前とは比較にならないくらい……というか打つ前は「ない」と考えてよいぐらいなので、ずっと増えているし、ワクチンは抗体以外の免疫系もしっかり刺激しています。ヒトの身体はそこまで単純なものじゃありません。

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