小野:これも日進月歩ではありますが、ターボのシミュレーションはなかなか難しくて、現実と合わないことがまだまだ多いんですよ。1.8Dの開発は2016年スタートで、当初から取り入れていますが、シミュレーションだけですいすい、というわけにはいきませんでした。

SKYACTIV-D1.8(写真:マツダ)
SKYACTIV-D1.8(写真:マツダ)

許認可に関わる環境対応関連には手を入れにくい

―― そもそものお話なんですけれど、もたつき解消のカギとなった「入りすぎていたEGRの量を最適化して、走りを改善したい」というアイデアは、これ自体は合理的というか、当たり前の発想のように思えます。「動き出しのときのEGRを見直そうぜ」というのは、これまでなかった考え方なんですか?

小野:いえ、エンジン開発の初期からその話はずっとありました。ありはしたんですけれど、やはりまず環境基準をクリアして認可が取れないと、このエンジンを載せたクルマが売れないですからね。

―― エンジンの開発においては、環境対応の要求順位が高いということですね。

小野:極めて高いです。すごく高いところにあります。

―― 走りやレスポンスよりもですか。

小野:はい。走りやレスポンスも、お客様にはとても大事なことですけれど、環境基準への適合は大前提ですから。お客様にクルマを届けるために、やむなく走りやレスポンスを犠牲にせざるをえないことがあります。

―― 優先度は動かしがたい、となれば、環境対策に関連する設定に手を突っ込まなくて済む方法でなんとかしよう、と考えるということでしょうか。

小野:うーん、開発の初期から「ここ、EGR入りすぎでしょ、最適化してよ」という話はずっとしてきていました。いましたが……なかなか難題なのは間違いなかった。

―― CX-30主査の石橋剛さんからは「エンジニアが強く『アップグレードをやりたい』と言ってきた」とお聞きしています。

小野:そうですね。ここについては結構強い思いはありました。「もっと走りをよくするために、こういうことを考えているんです」と上司には訴えていまして、当時の本部長からも内々に「検討は続けておいてくれ」と、お墨付き……ではないけれど、それ的なものをもらって、ある程度できたところで説明に行ったり、改良したキャリブレーションを織り込んだクルマに乗ってもらって、そこから担当役員にも運転してもらったら「これは面白いね、“さらに改良して”次の商品改善に入れなさい」という話になって。

―― それで、大事な大事なEGRの制御も、変えてみてもいいと。

小野:それまでは、量産されたエンジンの認可に関わる領域の変更はできないため、EGR制御には手を加えられなかったんです。けれど先ほどの担当役員の“さらに改良して”の声もあって「再認可を前提にどこまでできるかやってみろ」と言ってもらって、そこから一気にEGRの再分配というか、最適化の検討が進みました。

 ここでは、私が描いた、走り、加速度のカーブのデザインですね。「こういうG(加速度)の波形にしたいんだよ」を目標にして、エンジンのセッティング、環境規制への対応を担当する部署などの方と一緒になって、最適化に取り組みました。ちょうどその頃、既にお客様が保有されている車両へのアップグレードをマツダとして始めるという話が出ていたので、「ぜひ、そこで」ということになったわけです。最初からこれで出せなかったのは大変残念ですし、つらかったけれど、後からでも提供できて本当によかったと思います。

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