小野:EGRを最適化して吸い込む排ガスの量が減少すると、排ガスではない新鮮な空気がより多く取り込まれるので、酸素の量が増えますね。酸素の量が増えれば、より多くの燃料をちゃんと燃やすことができる。ディーゼルエンジンの煤(すす、PM、Particulate Matter 粒子状物質)は、酸素に余裕がないと増加します。これを避けるために、マツダでは「O2ガード」と呼んでいますが、シリンダーに取り込まれた酸素の量に応じて燃料噴射量の上限を設ける制御を行っているんですね。
―― そうか、酸素の量が増えれば、O2ガードの上限に突き当たる前により多くの燃料を燃やせるようになる。そうなれば排気が早く増えて、ターボが早く効く、ということか。
EGR制御を最適化することが課題だった
小野:まとめますと、アクセルを踏み始めた際の燃料噴射をちょっと早めることで躍度を高くして適切な反応を出します。早く燃料を噴けば排ガスボリュームも早く増えます。そして、EGRの最適化でしっかり燃料が噴射できて排ガスボリュームがさらに増えるので、ターボの過給が早く効き加速度のカーブをより立てることが可能になった。それ以外の効果もありますが、クルマは必ず最初に「発進」しないといけないので、そこの改善は一番頻繁に感じられる。そういうことかと。
―― ターボに自然に排気が入ってきて過給が高まるのを待つよりも、先に1度プッと燃料を入れて排気を出して回しちゃえと。で、ターボが回れば、新鮮な空気がエンジンの燃焼室に押し込まれて、たくさん燃料を噴いてもきれいに燃やせてトルクが出る。
小野:そういうことですね。
―― なるほど、でもEGRを緩めると、早く燃料を噴く分、環境・燃費性能は悪化するのではないですか?
小野:EGR減量からNOx悪化(排出量の増加)をイメージされるのだと思いますが、加速初期の悪化分を、過給圧が上昇してエンジンの回転が上昇していく領域でバランスさせているので、アップグレード前と同等なんですよ。
―― なぜそんなうまいことができるんでしょうか。
小野:EGRは(排ガスを)多く入れれば入れるほどいい、というわけではなくて、ある量を超えるとNOxの低下は小さくなる一方で、燃焼が悪化しトルクが下がってしまうのです。CX-30の場合は、これが初期応答後のもたつき、加速の遅れにつながっていた。これを(目標の加速度を達成するために)取り戻そうとアクセルを踏み増すと、過給圧が上昇する領域でNOxが多く出てしまう。
―― ははあ……。
小野:そこで、こうしたんです。加速初期のEGRを最適化することで、狙いのトルクが出ます。ここでわずかにNOxが増えますが、そのあとのアクセルの踏み増しが不要となるので、過給圧が上昇する領域のNOxが減り、トータルで同等にできています。燃費も、もたつきが改善された分、同等か少し改善する方向なので、EGRの減量ではなく「最適化」という言葉を使っています。
―― こうした調整って、お得意のモデルベース開発(MBD)のシミュレーションでやれちゃったりするんですか。
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