マツダCX-30の1.8リッターディーゼルエンジン搭載車(SKYACTIV-D 1.8、以下1.8D)は、改良が入る2020年10月以前のモデルでは、発進時や、減速してからの再加速時にどうももたつくクセがあった。これが、ソフトウエアのアップデート(マツダの言葉では「アップグレード」)でほぼ解消された。

 ソフトの制御をどう変えるとこういうことができるのか。そして、これができるのだったらどうして最初のモデルからやらなかったのか。パワートレイン開発本部 走行・環境性能開発部 第1走行・環境性能開発グループの小野泰司さんによれば、カギは「加速度」から「躍度(やくど)」を重視することに考え方を変えたことにあった。

 躍度は「加速度の変化率」を表す物理学の用語。文学部哲学科出身の編集Yが理解に悪戦苦闘する様は、前回をお読みいただきたい。躍度が高くなることが、加速度が高いことよりも「加速している」という実感を人間に与えるのだという。

 今回は、その躍度が高いという印象を人間に与える方法から伺っていく。

(前回「人間に大事なのは“カカソクド”……ってなんなんですか?!」から読む)

―― 「躍度が高い」という印象は、具体的にはどうやることで生まれるんですか。

マツダ 小野泰司さん(以下、小野):端的に言えば、動き出し初期の加速度のカーブを立てることで躍度を高くするんですよ。以前は加速度のカーブは立てず、加速度の高さで初期の応答、反応を感じてもらおうとしたのですが、諸事情でしっかり感じられるまで加速度が出せなかったんです。

―― 翻訳してみますね。まず、動き出しでアクセル踏むと、ターボがまだ効いてないから空気が押し込めず、燃料も燃やせないからトルク(駆動力)が出ない。アクセルへのレスポンス(反応)が弱いので、これを「もたつき」とドライバーが感じる。ようやくターボに排気が回ってくるとそこから加速する。そして最終的には目標の加速度に到達する。でも、その到達過程の躍度が低すぎて、加速感がない。

さっさとターボを回すには?

小野:はい、そうですね。動き出し初期の加速度のカーブを立てるために、燃料を前よりもちょっと早めに噴くようにしました。これがその後の過給圧上昇の早期化、もたつきの改善にもつながったんですよ。もたつきの改善のために、EGR(Exhaust Gas Recirculation、排気再循環)制御の最適化にも取り組みました。

―― EGRというのも、小野さんの担当なんですか。

小野:いえ、違います。でも「担当部門に丸投げ」ではなく、複数の関連部門で意見を出し合い、協力して最適化を実施しました。これはうちのような、小さくて、部門間の壁が低いマツダならではじゃないかな、と思います。

―― で、早めに燃料を噴けば、排気が早く増えて、ターボが早く動き出す。となればターボラグが減る。加速度のカーブが急になって、加速感がよくなる。なるほど。ええと、ところでEGRというのは……。

小野:EGRは排気ガス(以下、排ガス)をもう一度エンジンに吸い込んで、燃焼温度を下げ、NOx(窒素酸化物)の発生を抑える装置です。

―― 窒素(N)は普通は安定しているのに、高温になると活性化して、酸素とくっついてNOx=大気汚染物質を作るんでしたっけ。でも、排ガスは空気より相当温度が高いんじゃないですか。空気じゃなくてわざわざ排ガスを入れるのはなぜですか。

小野:確かに排ガスは空気より温度は高いんですが、既に燃焼した後なので分子量が大きくなっていて、空気よりも温まりにくいんですね。

―― で、EGRを減らすことは、ターボが早く効くこととどうつながるんでしょうか。

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