(前回から読む)
―― 本日はよろしくお願いいたします。前回まで主査の石橋剛さんにうかがってきた通り、マツダのSUV、CX-30が、ソフトウエアのアップデート(マツダの言う「MAZDA SPIRIT UPGRADE D1.1」)でエンジンの特性ががらっと変わりました。自分のクルマで体験してびっくりして、「ソフトの変更でどうしてこんなに変わるのか、そして、最初からこれを出さなかったのはなぜか」を聞きに、広島までお邪魔しました。ですが、エンジンや燃焼についてはド素人ですので相当ご迷惑をおかけすると思います。なので、先に謝っておきます。
マツダ 小野泰司さん(以下、小野):いえいえ大丈夫です。よろしくお願いいたします。
―― 小野さんのご役職は、名刺によれば「パワートレイン開発本部 走行・環境性能開発部 第1走行・環境性能開発グループ」。これは具体的にはどんなお仕事をされていらっしゃるんでしょう。
職業は「加速度のカーブのデザイナー」

小野:かっこよく言いますと、クルマを加速させるときの加速度のカーブを、分かりやすく言えば、加速度を時間的にどのように変化させるかを、デザインして実現している部署、ということになるでしょうか。
―― 加速度のカーブのデザイナー。加速度が高いか低いかは、エンジンの性能の何と関係しているんでしたっけ。
小野:加速度はほぼエンジンの「トルク」で決まりますね。「ものを回転させる能力」とか、「ねじりの強さ」とか言われます。「自転車のペダルを踏み込む力」に例えられることも多いかな。
―― トルクと馬力、とか、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの特徴とか、しっかり理解したい基本的なテーマが山のようにあるんですけれど、これを始めると本題に入る前に解説回を作らなければならないので、今回はすぱっと加速度のお話で行きたいと思います。
小野:そうですね(笑)。加速度の大きさはエンジンのトルクで決まり、トルクを出すにはアクセルペダルを踏んで、燃料をエンジンに噴いてやる必要がある。ただし燃料を噴けば噴くほど、燃費、そして環境性能は悪化する。まずはそこだけ押さえていただければ。
―― ありがとうございます。しかし改めて思ったんですが、「加速度のカーブをつくる」ことが仕事として公言できるということは、マツダが「加速度のカーブ」を強く意識した開発をしている、ということになるわけですかね、やっぱり。
小野:はい、加速度のカーブをデザインするということが少なくとも今、自分のメインの仕事になっています。もともとは全開加速のタイムとか、最高速を測ったりとか、そういうところを見ていたんですが、今は加速タイムよりも加速度の形、そういうところのほうが重要視されるようになってきました。
―― これは業界的に当たり前のことなんですか。
小野:他社さんの詳しいことは分かりませんが、マツダでは当たり前といいますか、そもそも加速度を見るというのは私が入社した三十何年前ぐらいからずっとやってきていることです。だけど、「人は加速をどのように感じているのか」というところまで研究してきたのは、この10年ぐらいですかね。
―― 数字から感じ方へ目を向けて10年ぐらい、なるほど。マツダとしてでも小野さんとしてでも結構なんですけれど、目指している加速の感じ方というのは、どういうものでしょう。
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