―― 編集Yです。自粛疲れ、変異ウイルス・デルタ型(以下デルタ)の流行、ワクチンの効果が接種から時間が経過すると落ちる、などなど、予想外のことを含む出来事が次々に起こって、新型コロナウイルスとの戦いは混迷を深めている……というのが、大多数のメディアの論調だと思います。そこにこんな弱小コラムがいまさら加わって、深刻さをさらにあおり立てたところで、何の役にも立たないし、読んでも面白くもない。マイナーだからやれることもあるんじゃないか。

峰 宗太郎先生(以下、峰):今日はいったいどうしたんですか(笑)。

―― いえ、ちょっと思いついたことがありまして、あえて現状からすれば「逆張り」の視点でお話を伺ってみるのはどうだろう、と。峰先生はtwitterで「バック・トゥ・ベーシック」、基本に戻ろう、と、ずっとおっしゃっていますよね。

:はい。

―― 実は、今どんなお話を伺うべきか考えるために、改めて(宣伝めいて本っ当に恐縮なんですけれど)昨年末に峰先生と出した『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』を読み直してみたんです。そうしたら、「あれ? 意外に予想外のことって起こっていないんじゃないか?」と。変異もワクチンの効果低下も「起きる可能性がある」と予想されていた話でしたよね。

:はい。

―― つまり現状は「予想外の出来事が次々起こって振り回されている」のではなく、「予想の範囲内にもかかわらず、現象の意味が正しく理解されなくて振り回されている」ってことじゃないか、と。でも、さすがにおこがましいかなと思って、「今回は開き直ってやりますよ」と、お断りをしたかった次第なんです。

:いや、そうなんですよ、そこなんですよ。

―― あ、やっぱりそうですか? 出てからあとちょっとで1年がたとうとしているのに、あの本が通用しちゃうというか、「これを読んでもらえたらちょっとは落ち着くのに」と思っちゃって。

:通用するどころか、今こそ読んでほしいですね。

―― 実は今でもじわじわ売れておりまして、アマゾンのレビューも先日ついに1000件を突破しました。本当にありがとうございます。

:ありがたいですね。この本ではウイルス、免疫、ワクチンという、自分の研究している分野の基本の基本から話させていただいているので、だからこそ修正する必要がほとんどないのではないかと思うのですよね。今加えるとしたら、変異ウイルスの話題、本格接種が始まって以降のワクチンの評価、そして、自分のメッセンジャーRNA(以下mRNA)ワクチンへの評価が大きく前向きになったところについての理由や考え方、ですかね。

 詰まるところ、ウイルス、免疫、ワクチンの基本をきちんと理解していただけば、「予想外の事態」とあおる、ときに無責任な情報に振り回されて消耗することは、確実に減ると思います。

―― 基本的な知識から丁寧に積んでいくというのはやっぱり大事ですし、「今はそれどころじゃない」とみんなが思っているから、わりとそこがすぽっと抜けているんだと思うんですよ。

考えるべきことは実は何も変わっていない

:その通りです。私には、現状は「お祭り騒ぎ」がしたくて、ぎゃあぎゃあ言いたくて「この先が分からない」と不安を叫んでいるようにも見えますし、良くも悪くも、「新しい情報」を探しすぎているのではないか、とも思います。でも、そうじゃないですよ。大事なことは何も変わっていない。

 私が言ってきたことにしても、本が出たあとも大きく変わってはいないです。mRNAワクチンへの判断をよりポジティブに改めた(こちら。ウイルスの「変異」についても触れています)くらいですが、それでもワクチンがパーフェクトで、これ一本やりでいけるなんて言ったつもりは、最初から一度もないですね。

 ワクチンは予防策の中の強力なアイテムで、ゲームチェンジャーではあるんですけれども、ナントカとハサミと同様に、ワクチンも使いようです。「ワクチンさえあれば大丈夫」と、一気に予防対策、マスクや3密回避を投げ捨てたイスラエル、英国、米国はそのしっぺ返しが起きました。

 そういう実例から考えても、基本に戻って、「結局、何をすればいいのか、そもそも何が目標か」というところをしっかり認識して、そこに向けて何ができるのかという話なんですよね。

―― 目標。目標とは「ワクチンの接種率を上げる」とかですか?

:いや、目標はあくまで「流行を抑えること」です。

―― ほとんど同義では?

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