お母さまは如月君の未来を案じている
泰:だから登場人物も、リアル(実在)なのか、自分の妄想の中の人物なのかを、ちょっと時間をかけて思い出したりとか、線引きがあやふやにだんだんなってきています。
―― うわ。
泰:やばいですよね。
―― やばいですね(笑)。あ、これもお聞きしていいのか分かりませんが、3年前のインタビューで最後に全部持っていったあのお母様、泰さんが「マンガ家になろうかな」と言ったら「じゃあ医師免許を取るんだね」と返した、あの。
講談社ヤマダさん:えっ? どういうことなんですか。
―― 詳しい経緯は「警察で学んだ、マンガ家として急成長する方法」をどうぞ。泰さんのお母様は『ハコヅメ』をお読みなんでしょうか。
泰:母は読んでくれていますね。
―― そうですか。
泰:あ、この前、びっくりしたのが、母がすごい神妙な面持ちで、「聞くべきじゃないと思うんだけど、1つだけ教えてほしいんだけど」と。
―― おお、何だろう。
泰:「如月君はどうなるの」って言われて、あ、夢中で読んでくれていると思いました。
―― 本当ですね。すごいですね。
泰:はまってくれていると思って。
―― そうですね。ちゃんとはまっていらっしゃいますね、お母様。これはしてやったりですね。
タブチ:そうですね。
泰:いや、恥ずかしいです、めちゃくちゃ。母は、なるべく感想を言わないようにしているなと感じて、ありがたいんですけど。
―― している感じなんですか。
泰:そうですね。ただ、如月のことは心配過ぎて聞いちゃったということみたいです(笑)。
―― うーん、さすが、岡島県に行って帰ってこれなくなるだけのことはある泰さんの妄想力。お母様もメロメロだ。それつながりで言うと私も、主人公、川合ちゃんの未来がちょっと心配になってきつつあるんですけれど。
泰:お、どこですかね?
川合さん、そこにいるあなたは幸せですか?
―― え、いや、これ言っていいのかな。記事で知る前にやっぱりこう、1巻から読んで17巻の「3歩前」でびっくりしてもらいたい気もするし……いいや聞いちゃえ。本編に、連載開始前にお考えだった4~5年後(インタビューその1を参照)の、本来の時間軸の場面がちらちら見えてくるじゃないですか。
あんなに天真爛漫(らんまん)だった川合が、そこでは、伝えないほうがいいことをのみ込むことを覚えて、まあ、出世してあれだけの立場になれば当たり前なんですけど、何て言うか、大組織のロジックに自分を厳しく合わせていく側に川合さんもいってしまうのね、みたいなのが見えちゃった。そこで私は、勝手に、「あ、あ、あ~」みたいな感じになってるんです。川合ちゃん、そこにいて君は幸せなのか、みたいな不安が立ちこめて。
泰:そうですね。
―― そうですねとか言って(笑)。
タブチ:ここまでに何があったんだろうね、ということになりますね。
泰:何、となりますよね。
―― 色々あったからそこにいるのは間違いないけれど、「それが、あんまりつらいことじゃないといいな」、とか思うわけなんですけど。
泰:『ハコヅメ』は、それぞれの登場人物が望んだ形ではなくても、私なりにそれぞれのハッピーエンドと思える結末は用意しているつもりなので、それはもう安心していただいて大丈夫です。
―― !
泰:「こんなふうな終わりにしてほしくなかった」と思う方もいるかもしれないですけど、私としてはそれぞれのちゃんとしたハッピーエンドのつもりで描こうと思っています。
―― もう全然それで、いち読者としては十二分に安心いたしました。余計なことをいろいろお聞きしてすみません。お忙しいところ、まさにフルコース、中身も時間もたっぷりお話しいただいて、ありがとうございました。
泰:ありがとうございました。
―― あ、思い出したので1つだけいいですか。『ハコヅメ』のキャラクターたちには、特定のモデルはいるのでしょうか。
泰:私、いろんなおじさんについての記憶のストックがいっぱいあるので(笑)。
―― ああ、そうか、そうですよね。
泰:作画するときの参考に、ちょっとポーズを取ってもらって撮影したい、というときは夫に頼んでますけれど。というか、夫じゃないとポーズは取ってもらいたくなくて。やっぱり描くときにたぶんちょっと好きな、好きというか、ちょっと魅力的に描きたいじゃないですか、キャラクター。色っぽく描きたいなら、ちょっと色っぽく自分が見ている対象じゃないとだめなので、夫じゃないと写真は撮れないというのがあります。
―― すごいのろけを聞かされているような気がします。
タブチ:そうですね。
泰:恥ずかしい(笑)。好きなカットがあって、宮原が安全運転競技会の審判のものまねをするシーン。
―― これですか。
泰:はい。あれはすごく楽しく描けました。
―― だんな様だったのか。
泰:夫のお尻を描いています(笑)。
―― いや、もう、デザートまでごちそうさまでした。
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