泰:調査兵団はフィクションですし、警察のほうがずっと安全な職場ですけど。勧誘する側の誠意の示し方としては、見習いたいなと思いました。いいトコばかり見せて勧誘するのはフェアじゃないですよね。
―― うーん、分かりますけれど、調査兵団と比べられること自体が、警察がかわいそうな気が……。でも、そんな組織の中で、したたか、かつのほほんと生き抜いている伊賀崎さんの話が始まるのは、すごく楽しみですね。私、あのおじさん、本当、大好きなんですよ。
泰:本当は最終回で伊賀崎のエピソードは描くつもりだったんですけど、タブチさんが「早く読みたい」とワガママを言うので「えー」と。最後にしたかったなと思っているんです。
―― あっ、そうだったんですね。
泰:何かまとまりがよくなりませんか。最終回付近で、今までずっと一緒だった交番所長のエピソードが出て来るというのは。
―― 最初の登場人物で最後を〆る。なるほど。
泰:きれいに終われるかなと思ったんですけど。
―― タブチさん、なぜ今急かしたんですか。
タブチ:テレビでドラマをやっているうちにちょっともう1回、ざわざわがあるほうがいいですよね、というのはありましたね。
泰:考察をしてくださる方が増えるんですよね。
タブチ:そうですね。なのでドラマの放映中にはやっておきたい。
―― なるほど。ざわざわ=不穏な展開があると盛り上がる。
泰:あと、これ、言っても大丈夫かな。男女間のことを描くときはちょっと気持ち悪くするようにしているんです。
―― 気持ち悪く。ざわざわというか、ぞわぞわするように。なぜでしょう。
泰:如月にしろ、源にしろ、ちょっとそういう雰囲気が出るときに「圧」とか「怖さ」とか、ちょっとぞわっとするように描くことで、読者が「男社会で生きる20歳の女の子の視点」で作品を見てほしいなと思っています。
山田みたいな「いいお兄さん」ばっかりだと、安心しきった状態で、作品を読めてしまうじゃないですか。でもこの作品の舞台は、主人公にとっては、どこかずっと緊張感がある場所なんだというのは、しっかり読者に感じていてほしいと思うんです。
―― そんなことをお考えだったのですか。
嫌われる要素から逃げない
泰:ちょっと、川合を『アンパンマン』みたいには描きたくないというか、恋愛もしないし、精神は安定しきっていて、ぶれずにずっと町の平和を守る、という警察官にはしたくなくて。20歳の女の子が警察官を続ける中で人間関係や環境の変化が生じた時、仕事とどのように向き合っていくかを避けて描くと、作品が『アンパンマン』になるなと。
私は『アンパンマン』のようなすごい作品、描けないので。やっぱりそういう、自分の弱さとか不利益なこととどうやって折り合いをつけながら、仕事と私生活を両立していくかで悩む人を描きたい。なので、今のところは、主人公にそういう恋愛関係のエピソードを絡ませるときは、読者にぞわぞわを感じてもらえるような演出で描いています。
―― 確かに。日常ギャグの連打でほんわかゲラゲラしていると、時折、ぞわっときて突っ放される、みたいなリズムですよね。それは、安定感があって心から安心できる日常、では生きていないよ、と、定期的に思い出させるための演出なのか。
泰:そうなんですよね。安心感を与え続けたくないというのはありますね。でも、そういうのは嫌がられるんです。恋愛をちょっと匂わせる描写を入れるだけで、すげえたたかれます(笑)。やめてくれ、求めてない、ネタ切れか、みたいな感じで。
―― 恋愛ネタは「安全・安心」じゃないから嫌われるんだ。
タブチ:SNSで読者さんが言ったりするんです。
泰:書き込みがネットであるんです。
―― あ、そうなんですか。
泰:すごいですよ。めちゃくちゃたたかれます。
タブチ:だから見ないでくださいと言っているんですけど。
泰:そうですね。でも、どれぐらい嫌がっているかなとちょっと興味が(笑)。
―― それ、書いてもいいですか。
泰:あ、どうぞどうぞ。この回のエピソードで、どれくらい嫌な思いをした人がいて、私はどれくらい嫌われたのかというのは、把握しておきたいんですよね。
タブチ:いつも言っているのは、「Amazonでレビューが5の本は売れてない本です。信者しか読んでないから」なんです。
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