―― そして、そんな世界にいるキャラクター同士が、下世話なネタで口げんかしたり真面目に取り調べしたりする。これが両立するというのがめちゃくちゃですね。

:そうですね(笑)。

1巻 その3「ビギナーズラック」より。  ©泰三子・講談社
1巻 その3「ビギナーズラック」より。  ©泰三子・講談社
[画像のクリックで拡大表示]

―― その、聞いていいのか分かりませんけど、ああいう下世話さというのは何かソースがあるんでしょうか。

:やっぱり育ってきた環境というか、20代のすべてを捧げた環境の。

―― ……警察ってそんなに品が悪いところなのか。

これでも「よく丸めてくれたな」と感謝されてます

:品が悪いというのはちょっと違うかもしれません。包み隠さず話をする、という文化があるんです。そういう話をオブラートに包んでいると、意思の伝達ミスがあったりとか、恥じらいながら言うとかえって被害者の方に申しわけないとか、そういう意識があるのです。元同僚の女性とこの前会ったときにも、性器を内臓の一部と同じぐらいのカテゴリーとして、こういう場(※取材場所は大型ホテルのコーヒーハウス)で普通の会話と同じテンションや声量で話をしていて、外から見るとやっぱり感覚が違ったんだなと思いましたね。

―― じゃあ、『ハコヅメ』の会話、全然これ、演出じゃないんですね。

:オブラートに包んでいる状態です(笑)。結構、周りから「何でもっとちゃんと描かないの?」「どうしてあんなソフトな描写なの?」と言われるんですが、いや、商業誌だからだよ、と。

―― 商業誌。

タブチ:「モーニング」は家に持って帰れる大人向け漫画雑誌なので。

―― ここでレーティングについての実感を読者の方にお伝えしますと、中学生のお嬢さんがいる同僚に貸したら、「すごい面白かったです。ただ、中学1年生の娘がめざとく見つけて『これ、何?』と言ってきたので、慌てて隠しました」と言っておりました。

:中学生はちょっとぎりぎりアウトかな。

タブチ:そうですね。

―― 話を戻します。「警察の方が見たら怒るんじゃない?」と心配しておりましたが、そうじゃなくて、警察の方がこれを見たら、「おお、よくちゃんと丸めてくれたな」というふうに。

タブチ:そうですね。そういうお手紙もたくさんいただきます。

―― マジですか。

:ありがたいですね。

タブチ:ファンレター、来ますね。

:来ていますね。

タブチ:いろいろな県警の方から。

:よくぞ言ってくれたと。うれしいですね。

調査兵団の勧誘に唸る

―― 一方で、距離感覚がすごく難しい作品でもありますよね。

:そうですね。

―― 寄り過ぎたら警察の広報宣伝になっちゃうし、離れ過ぎたら内部告発めいちゃって、どちらもおそらくご本意じゃないと思うんですけど、それの距離感というのは何か意識していらっしゃるところってありますか。こういうことは描かないとか、こういうところまでは描くとか。

タブチ:そこは私が常に気にしているところです。ネームの後、打ち合わせで結構話題になりますね。よく描き過ぎると広報臭がしますからという打ち合わせはときどきしますね。

:女性誌でやっていた『進撃の巨人』特集を昔読みまして、自分だったらこの世界にいたらどうする?という問いかけがあったんですよ。若いモデルの方とかが、「私は調査兵団に入る、そして絶対生き残る」みたいな回答をしていたと思うんですけど、私がなるほどと思ったのは、調査兵団のエルヴィン団長が、若者を調査兵団へ勧誘するシーンですね。

 調査兵団の仕事について、危険性や制約があることなど、不利益について隠さずに説明する。その後に「こういう理由で仲間が欲しい」と募る。あのエルヴィン団長の勧誘の仕方は、すごく誠意があるなと思いました。不利益を理解してもなお、やりがいを感じて志望してくれたのなら、一緒にいい仕事ができそうじゃないですか。

タブチ:調査兵団のつもりで。

―― 調査兵団なのか。

次ページ 嫌われる要素から逃げない