『<a href="https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000354572" target="_blank">ハコヅメ~交番女子の逆襲~(18)</a>』
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警察官からマンガ家に転じた泰 三子さんの『ハコヅメ~交番女子の逆襲~(以下、ハコヅメ)』は、合計230万部を売り上げ、2021年7月からは日本テレビで地上波ドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」が放映開始、アニメ化も決定(こちら)。「4、5年前から振り返って描いている」(その1)、「すべての登場人物から“身上調書”を取ってある」など、プロの作家とはここまでできるのか、の衝撃と、泰さんのお仕事への覚悟に驚かされまくりのインタビュー、これにて最終回です。(編集Y)

●3年前、デビュー直後のインタビューはこちら

【前編】「『警察は“しょうもない人”が頑張る仕事です』」
【後編】警察で学んだ、マンガ家として急成長する方法

(その1から読む
(その2から読む

―― 話を戻しまして、長編を短編の中の要素とスムーズに繋げるにも、伏線、つまり、そのキャラクターが何を抱えてどんな経験をしてきたか、を知っておくことが重要で、それがおそらく泰さんのおっしゃる「身上調書(その2参照)」ですよね。

:そうですね。

―― 調書を読み合わせていくうちに、キャラクター同士が絡まり合って、「自動運転」というか、妄想という名のお馬さんの疾走が始まって、それを録画していく。と、無理やり言葉にするとこんな感じかと思いますが、それにしても、例えば『アンボックス』の主人公、カナちゃん。彼女が本編に出てきたときに、「この子はつらい事件に巻き込まれていくんだろうな」というところを感じながら聴取しているんですか。

:そうですね。

―― そうなんですか。

:そもそも生安(生活安全課)の警察官は、強い恐怖心を抱きながら仕事をしないといけないんです。DVやストーカーといった継続事件というのは、自分の予期しないことがばっと起こる。だから、いつでも気が抜けないというのがその怖さの正体なんですけど。

―― 要領が良くて、バランスの取れたかわいい小悪魔、に見えるカナちゃんは、実はその恐怖心をずっと抱えた状態で生きている。そこは身上調書にちゃんと書かれていると。

『ハコヅメ別章 アンボックス』から。正義を振りかざした人々に責められ、一家が壊れていった過去を持つカナ。&copy;泰三子・講談社
『ハコヅメ別章 アンボックス』から。正義を振りかざした人々に責められ、一家が壊れていった過去を持つカナ。©泰三子・講談社
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:そういう思いでカナのキャラを描いてきて、この彼女の持っている恐怖心を読者に明かすか明かさないかという決断があるわけですが、そこを、長編で「今だ行け!」と言われたら、出してみたかったんです。この秘めた恐怖心を描かないままだと、このキャラ自体が、ただの作りもので終わってしまうと思いました。

―― なるほど、そういうことなのか……。

:ですので、カナは、もともとちょっと負の要素が強いキャラクターだったんですね。

―― あと、川合、藤コンビが在籍する交番の所長の伊賀崎さん。ただの「昼あんどんのぐうたら社員」かと思っていたら、この人の底知れなさ、不気味さったらないじゃないですか。

:ありがとうございます。この人の、来週(※取材時点で)から長編のネームを描こうと思っているんです、伊賀崎メインの。

―― やっぱり何か始まるんですね。伊賀崎さんは『ハコヅメ』の第1回から顔を見せていますが、印象的だったのは57話の「公妨で攻防」でした。川合が卵をぶつけられちゃう回。あれがこの人の職業観なのかなというふうに思って、すごく印象づけられて。

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伊賀崎の職業観がうかがえるシーン。言葉面だけだと「昼行灯のデモシカ警官」にも見えるが、よく読めばお分かりの通り、この男はそんなに底が浅くない。「公妨で攻防」(7巻その57)より。&copy;泰三子・講談社
伊賀崎の職業観がうかがえるシーン。言葉面だけだと「昼行灯のデモシカ警官」にも見えるが、よく読めばお分かりの通り、この男はそんなに底が浅くない。「公妨で攻防」(7巻その57)より。©泰三子・講談社
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―― 愉快なおっさんがまた1人増えたのかな、と思ったら、監察官を追い詰める話が出てきたり、よく考えてみたら、「公妨で攻防」の回で窃盗犯を捕まえるのだって、いや、ただのサボリーマン警察官にはなかなかこんなことできないだろうと。

:そうなんですよね。

―― 気がついてみると、カナちゃんもそうですけど、印象に残るそのキャラのエピソードをどんと置いておいてから、しばらくすーっと眠らせていて、そういえばいたわ、というふうに揺り返しを起こす、というのがものすごくうまいなと思うんです。

:ありがとうございます。

―― これは妄想とは別の、構成力みたいなものなんじゃないですかね。

:いやいや、妄想です。妄想。

脳内に岡島県警が入っている

―― 妄想ですかねえ。

講談社担当編集・タブチさん(以下タブチ):普通の人の妄想のレベルじゃないんですよね。たぶん、泰さんの脳内には1つの警察署ができている、みたいなことなんじゃないですか。

―― 全員の身上調書(前回参照)が組み合わさっているんだから、そうか。

:はい、県警が丸ごとできあがっている感じです。

タブチ:それも静止画ではなくて、何年かにわたり「この人はこう紆余曲折があり」という、4次元レベルで構成されているんですよ。

―― そうか。グーグルマップのタイムスケールのような機能もついている立体模型みたいな。

タブチ:ズームもできるしと(笑)。

:という感じです。

タブチ:本当、“症状”ですね。

:“症状”ですね。

続きを読む 2/5 これでも「よく丸めてくれたな」と感謝されてます

この記事はシリーズ「編集Yの「話が長くてすみません」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。