「いいモノ」の心への効果はバカにできない

石橋:自分の審美眼、価値観にかなうプロダクトを持つことによって、今度は自分の生活自体が変わってくる、ということもありそうですよね。

―― そうそう。「モノが持ち主の気持ちに与える力というのは、決してバカにできないぞ」ということだと思います。

石橋:本当に余談になりますけれども、ユーザーの方のコメントで、CX-30を洗車してずっときれいな状態に保っておきたいと。その次は、「じゃあ、乗るときに、サンダルとジャージでいいのかな」となると。変な意味じゃなくいい意味で、乗るときの服装というのも気を付けるようになった、そういうお話があって。

―― モノが人を変えてますね。

石橋:それがどんどん伝播(でんぱ)して、普段から持つもの、触るものも変わってきたと。人からどう見られたいか、というところもなきにしもあらずですけど、やっぱり「自分がどうありたいのか」というところに、こだわりを持たれている方がCX-30を選んでいただくと、その波及効果も少なからずあるんじゃないかと。

―― 自分がどうありたいか、って、自分が変わりたくない、ということじゃなくて、どう変わりたいか、ということだと思うんですよ。さっきの話に、「転機の後押し」というのが出ましたが、コスパだけで割り切らずに、自分の趣味でクルマを買う、ということの中には、どこかに「変わりたい」「変われるはず」という思いがあって、そういう人に刺さっているんじゃないでしょうかね。

石橋:そうですね。いや、しかし、何の話をしているのか(笑)。

―― まったくだ(笑)。というか、こんな話ができるクルマって本当に久しぶりですね。

石橋:そう。例えば弊社のCX-5って本当にすごくいいクルマで、私は歴代のマツダの中でも、ベストバランスだろうなと思っているんですが。

―― だと思います。

石橋:万能で360度、隙がないんですよ。懐が深い。一方で、ある意味特別すぎ、とんがりすぎているのがロードスター。でも、どちらが今回のような話が出てくるかといえば。

―― 後者ですよね。もちろんCX-30はロードスターほどは振り切ってはいないけれど、CX-5の弟分なのに、スモールCX-5ではなくて独自の個性があるから、これだけ暑苦しい話をしたくなるし、熱狂的なファンが付いてくる。

石橋:はい、いろいろなお客様と、ある特定の領域ですごく深い話ができるクルマだろうなというふうに思っています。

―― そこまでいくだろうというのは、マツダの人にしても予想外だったんですかね。

石橋:私の個人的な感想としては予想外。ただ、もともとやはり「世界一美しいSUV」を造りたいという思いがあったクルマですから。

―― 発表会でデザイナーさんからそれを直接聞いて「すごいこと言うなあ」とびっくりしました。

世界一美しければ、世界一洗いたくなる

石橋:はい、そういう志は持っていましたので、デザイナーからは「当たり前ですよ」という言葉が返ってくるかもしれませんけれども、個人的にはやっぱり想定外でしたね。担当させてもらってからいろいろと調べていると、さっきも言いましたが「何でこんな洗車の話題が多いクルマなんだ」という、それが第一印象でしたので(笑)。

―― 世界一洗いたくなるクルマか(笑)。それは面白い切り口かも。そういうふうにマツダが……開発の、技術の思いをどーん!というところはもちろん大事だし、いいんだけど、買うほうはここが気に入っているみたいだよ、というところを、ちょっとは意識し始めた。そういうことなのですかね、石橋さんがCX-30を任されたというのは。

石橋:その使命を、少しかな、多くかな、いずれにせよ帯びているというふうに私自身は認識しています。最初にお話ししたように、品質しか知らない人間がいきなり主査になったというのは。お客様の見え方だったり、開発の考えている志だったりについて、私自身もしっかり勉強しろ、ということも含めてなんですけれども。

―― なるほど。

石橋:おっしゃる通り、マツダのやりたいこと、やりたい商品を売っているだけじゃないかと、よく言われていることも見ていましたし。

―― あ(笑)。

石橋:それに対して、マツダはちゃんと正対していただろうか、こだわりだったり、独自性だったりというところで、お茶を濁していませんかと。お客様の声、市場の声、いい面はもちろんですが、ご意見はしっかり聞くべきですよね。もちろん、今までも聞いてないわけじゃないんですよ。

―― 分かっていますよ(笑)。

石橋:でも、これまで以上に耳を傾けるべきでしょうね。ただ、そこの中でもきちっと取捨選択をして、お客様に媚(こ)びるとか倣うべきではないとは思います。その上で、私を起爆剤にして、よりよい方向にできたらな、と考えています。

―― ありがとうございました。では自慢の、いや、自前のカメラで最後にもう1枚撮らせてください(笑)。

マツダCX-30主査 石橋 剛さん
マツダCX-30主査 石橋 剛さん

(次回はエンジンの開発エンジニアの方に、アップデートの具体的な内容と効果について伺います)

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