石橋:その場合、高い速度は必ずしも必要ではないかもしれません。これは社外の方々には展開できてないんですけれども、実は弊社の中でも社員相手に「人馬一体アカデミー」というのがありまして。ポルシェさんとは逆に、時速10キロ以下のスピードでクルマをコントロールする。低速だからこそ、どのタイミングでどれだけステアリングを切らなきゃいけないのかというのが如実に分かる。これを今どんどん社員に体験してもらっています。

―― 面白い。しかし大変失礼ですが、社外に展開している話より社内の話の方が魅力的なような(笑)。

石橋:そうなんですよ、そこがまだまだ商売下手なんですよね……。愛車を選ぶための方法は、これからも多様化していくと思いますし、選択肢が増えた分、お客様も慎重になっている。

―― 一方で、ディーラーを回らずにネットで決めて買っちゃうお客さんというのが最近すごくいらっしゃるらしいじゃないですか。試乗ってこんなに楽しいのに、何で? と私なんかは思うんですけれど。

石橋:ありがたい面もありますけれども、クルマというものへの興味という観点では残念な点でもあります。

最近、いいカメラ買ったんです

―― クルマはそれぞれ走らせてみると違うんだ、ということすら気がつかないで買うわけじゃないですか、「カメラなんてどれでも同じだろう」みたいな感じで買って、「スマホの方がよかったかな」と思うんじゃ悲しい。

石橋:我々は、シェアより理解してくださるお客様のためにと言っているわけですが、やっぱりクルマ好きの方が増えてほしい、という思いも持っていますのでね……。そのカメラを買われたんですか?

―― そうなんです。分不相応にフルサイズを手に入れちゃいました。

石橋:相当いいカメラなんですね。

―― 最近はカメラにもサブスクがあって、いろいろ試しているうちに、いいカメラとレンズが欲しくなってしまって。腕は同じなのに撮れる写真が激変しましたよ、びっくりしました。

石橋:Yさん、CX-30を買われたことと、そのカメラを買ったことって、つながっている気はしますか?

―― ん? ……あまり考えたことがなかったけれど、CX-30を買って、「いいものはいいな」と思ったことで、カメラもいいものが欲しい、というのは、そうですね、初めて気がつきましたけどつながっているような気はしますね。自分が使って、表現というほどのものじゃないですけど、「これは俺が撮ったんだよ」と満足できる。そのための道具だったら、手間とコストをかける甲斐はある、という。

石橋:そうですよね。

―― バリュー・フォー・マネーというのは、「安いこと」だけじゃないんだよね、バリューが大きければマネーがそこそこ大きくてもいいわけだよね、というのが、さっきのお話、例えば子どもに手がかからなくなったりすると、余裕が生まれて気がつくというのはあるかもしれないですね。あるいは、年を取って、自分がどこまで前向きにやれるのかが気になって、支えになるものが欲しくなる、ということかもしれません。そこで、自分が「これはいい、本物だ」と思えるものを求めたくなるのかな。

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