「80%でやれ」だと、技術者にフラストレーションが溜まる

 「何で最初からこれで出さない?」とか言っちゃいましたが、技術は開発している間に理解が進んで、それまでできなかったことが可能になるものなんですよね。完璧というか「もうこれ以上はない」ところに行くまで待っていたら、いつまでたっても商品にできないわけで。

石橋:はい、世の中で「買った後も改良が進む」ということが新しい常識になっていくだろう、ということがまずあり、それを可能にできるだけのクルマの、技術の進化ということもあります。その上でですが、やはり「お客様に最新・最善のものをしっかりと提供させていただきたい」ということが、マツダのアップデートに対する考え方なんです。決して「とりあえず80%のものを出しておいて、後から20%加えましょう」みたいなことではなくて。開発中の100%は、発売時にはすでにもう100%ではないんです。これは世の中の進歩と、技術開発が持つ宿命の両方の意味で、です。

 しかもソフトウエアならば、モデルチェンジやマイナーチェンジにとらわれずに随時アップデートが可能になると。なるほど。もう一つ、これはとても意地悪な言い方ですが、マツダは技術開発を熱心にやっている分、人員・予算でギリギリの線を走っているのじゃないかと思います。時間が足りないということもあるでしょう。そこを、アップデートで後からカバーできる、という期待もありませんか。

マツダCX-30主査 石橋:剛さん
マツダCX-30主査 石橋:剛さん

石橋:マツダの社員って、本当に皆まじめで、全力で走るんです。ギリギリで走っているというふうにおっしゃいましたけれども、だからこそ、例えば「80%でやれ」と言われることは、エンジニアにとっては逆にフラストレーションなんですね。「ここまでできるのに何で出さないんだ」と。それよりも、信頼性を十分に担保した上で「常に全力を提供させていただいて、それから次をいきましょう」と。そういうほうがエンジニアの心理的にも楽というか、ストレスがないんです。

 なるほど、とはいえ、アップデートだけでなく一部改良もそうですが、一度にまとめてやったほうがビジネス的にはいい、ということはないんですか。

石橋:それはあるのかもしれません。ただ、我々としては本当に、自分勝手で申し訳ないですけれども、「できることは常にすぐやらせていただいている」ということですね。やはりエンジニアは「できたものをどんどん提供させていただきたい」という思いも強いですので。

(つづきます)

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

春割実施中

この記事はシリーズ「編集Yの「話が長くてすみません」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。