『<a href="https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000352499" target="_blank">ハコヅメ~交番女子の逆襲~(17)</a>』
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警察官からマンガ家に転じた泰 三子さんの初連載『ハコヅメ~交番女子の逆襲~(以下、ハコヅメ)』は、2018年の連載開始から21年8月9日時点で17巻+スピンオフ1巻を刊行、合計230万部を売り上げるまでになりました。21年7月には日本テレビで地上波ドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」の放映が開始され、アニメ化も決定(こちら)。デビュー直後のインタビューに続き、日経ビジネスへの「凱旋公演」は、まだまだ続きます。(編集Y)

●デビュー直後のインタビューはこちら
【前編】「『警察は“しょうもない人”が頑張る仕事です』」
【後編】「警察で学んだ、マンガ家として急成長する方法

(前回から読む

「分かりやすい」だけではお金を払ってもらえない

―― 単行本の4巻が出るころに「面白いだけでなく、実は大長編だということが伝わる作り込まれた伏線や、読んだ後に苦さが残る話もやろう、やらないとセールスにも繋がらない」と、泰さんと編集のタブチさんが決断したと。これ、褒め言葉として聞いていただきたいんですけど、実は『ハコヅメ』は、すっきり分かりやすい話ばっかりでは全然ないですね。

:そうです。

タブチ:そうですね。

:全然、そういうつもりじゃ描いてないですね(笑)。なぜかと言えば、分かりやすい感じの話ばかりだと今の時代はお金を払ってもらえないという。

―― うっ?!

:単行本を集めていても途中で転売されたり、購読をやめられてしまうというのがあって。サブスクもで無料でだいぶ読めますし。なんですけど伏線をこうやって間に置くことで読み返したくなる、その結果、手元にずっと置いていてくださるという、そういう描き手の願いもあったりして。

―― おおっ、納得できる。映画「君の名は。」を作った製作プロダクションの、コミックス・ウェーブ・フィルムの川口典孝さんに聞いた話とちょっと通じます。

タブチ:もと商社の方でしたっけ。

岡島県に住んでいる

―― そうそう。新海誠監督にほれ込んで、自分で起業してアニメーションの制作スタジオをつくっちゃって、そこでもう十何年、ずっと一緒にやっていて、とうとう東宝と組んで大ヒットというのが「君の名は。」なんですよ。

:へえ、すごい。

―― 何でこんなことができたかといったら、やっぱり新海監督のファンは、DVD、Blu-rayをちゃんと買ってくれる。何で買うかといったら、とにかくあふれるほどの伏線と情報量を詰め込んである作品だから見返したくなる、と。

タブチ:そうですね。

―― 「今、配信でも見られますよね」って聞いたら、その通りです、配信どころかテレビでもやります。そして、テレビでやるとお皿(ディスク)がまた売れるんですよ、と。「見たら手元に置きたくなる」だけのクオリティーを突っ込んでいる。つまり「この世界にいつでも行きたい、いつまでもいたい」というふうに思わせる力がある。そうなると、パッケージを買いたくなるし、買わざるを得なくなる(インタビューは「『君の名は。』までの10年を聞く」と「『君の名は。』の収益はどう使うんですか?」)。

:手元に置きたくなるという。

―― そうなんです。で、『ハコヅメ』も、こちらのインタビューの準備で集中的に読んだせいもありますけど、いま私は結構、舞台となる警察署がある「岡島県」に住んでいる感じがしています(笑)。

:うれしい。ありがとうございます。

タブチ:さっき「スタートレック」の話をしましたけど(前回参照)、「スタートレック」もやっぱりすごい情報量が詰め込まれているじゃないですか。異星人の言語のクリンゴン語をわざわざつくるぐらいやっていて。

―― ブループリント本(本編に登場する艦船や武器、通信機などの設計図集)も出ましたね。高くて買えないので友人からコピーさせてもらって、宝物でした。あれはいま考えてみると、まさにその世界にいるような気分になれるアイテムですね。

:へえー。

タブチ:ジーン・ロッデンベリー(テレビ番組「スタートレック」のプロデューサー、作品の生みの親)って、もともと米国海軍士官です。その後、ロス警察で働くんですよ。だからああいう軍隊とか警察の組織構造とか、組織内のマナーみたいなコンテキストが、「スタートレック」ってめちゃめちゃ詰め込まれていて、それが面白いんです。泰さんは本物の警察組織を知っているから、そのコンテキストがさりげなくみっちり詰め込まれていますよね……という話を昔しましたけど、全然覚えてないでしょう(笑)。

:今、聞いても話が難し過ぎて。片仮名だと私、ちょっとよく分からないんですよね。

―― ご無理ございません。今のは中年オタクにのみ通じる話でございます。でも私には分かりました。たぶんうちの読者さんにもよく分かります。

続きを読む 2/5 マニアが勉強しても追いつけないリアルさ

この記事はシリーズ「編集Yの「話が長くてすみません」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。