:そうです。「この新任時代のほうが面白いんじゃない? 藤さんとペアを組んでいるときの」という話をされて、ああ、そうかって。私もそのときの自分が描こうと思っていた話よりも、ちょっと藤に気持ちがいっちゃっていた部分もあったので、後押しされたというところもあるんですけど。それで、タブチさんに見ていただいたら、女性同士のペアがキャッチーだから、まずこれでやってみましょうという形で始まった。

―― なんと。当初お考えだった、現在の4~5年後の世界というのは……。

:川合が、だいたい藤の年齢なんですよね、ちょっとまだ若いですけど。

―― じゃあ、まだその最初に考えていらっしゃった時点に、話のほうが追い付いてないということですか。

:追い付かせるとメンバーが代わってしまう。藤と川合がペアじゃなくなってしまうので。だから今、本編は『サザエさん』時空をぐるぐるしているんですよね。時を進ませられないので(笑)。

タブチ:そうですね。

警察時代が一番精神が安定してました

―― そういうことですか。つまり、ギャグに忍ばせた伏線というより、もともと4~5年後のオチまでが見えて描いている大長編なんだ。なるほど。いやいや、「ほとんど後付けです」とか、おとぼけになって。後付けどころか、死ぬほど考えているか、天才かのどっちかですよね。

:ああ、じゃあ、天才のほうでお願いします!(笑)

タブチ:まあ、どっちもあるし、泰さんは考えるのをやめようとしても、考えちゃうんですもんね、たぶん。

:ちょっと病気なんですよね。ずっと考えてしまうのが辛くて……。

―― ずっと考えちゃう人なんですね。

:頭が休まらないタイプの病気の人間なんですけど。だから思春期のときはすごくそれで苦しんだんですけど、警察に入ったら逆に余計なことが考えられなくなるんですね、まず警察学校の苦しい訓練で、考える余裕がなくなる(笑)。

―― ええっ。

:だから警察のときが一番、ハードな環境でしたけど精神が安定していました。

―― 頭が楽になるから。

:仕事に追われて余裕がなかったので、無駄な妄想をせずに済んでいましたね。ですので、今、週1連載で話を描かせていただけているからいいですけど、「これ、月刊にしてください」って言われたら、私、精神的に持つのかなと思います。

―― もう渦を巻いているわけですね、頭の中で、この話を早く出させろ、みたいなものが。

:そうですね。出産のときと一緒ですよ。息んでいいよって言われて、やっと出せるみたいな。出したいのを我慢しないといけないのが辛いんですよね。

―― すごい。いや、タブチさん、とんでもない玉を拾ってきましたね。

タブチ:そうですね(笑)。

―― 初回のインタビューでお会いしたときは、こういう方だなんて全然分かりませんでした。タブチさんは、泰さんがこういう人だというのにいつごろ気がついたんですか。そうだ。今のお話でいくと連載の前からその片りんを知ってらっしゃったということですよね。

タブチ:そうですね。前回お話した通り、最初に泰さんから送られてきたのは、イラストにセリフがついたくらいの1コマ、1ページ漫画なんですけど、それを何本も描いてもらって、話しているうちに、ちょっとこの人は空想癖の次元が違うぞ、化け物クラスかな、みたいなのはちょっとあって。

―― やはり。

タブチ:でも、今まで漫画を描いたことがない人だから、どうなるか分からない、と思っていました(笑)。

やりたい方向へ舵を切った4巻目

―― ご本人も担当者も含めて当時はまだ分からない、とはいえ、じゃあ、私が前にお話を聞いた時点で、すでにハコヅメの4~5年先のことは、どの程度かはともかくとして頭にあったということですね。

:そうですね。

―― あの時点では、明るく愉快でちょっと品がない(こともある)警察マンガだとばっかり思い込んでいました。お恥ずかしい。

:いえいえ、そう思っていただければ全然いいんです。

―― じゃ、なぜ4巻のタイミングだったのか、なんですが。

タブチ:たぶんそれは、ご指摘のあった4巻ぐらいのときに、交通事故でチャイルドシートの赤ちゃんが車外へ放り出されちゃうという話を、Twitterから1話全部読めるようにして、まあ、いくつかバズりそうな話を流したんですけど、この話が一番バズったんですよね。

:でしたね。

―― それこそさっきちらっと触れた「トラウマ」の回ですね。

赤ちゃんを巻き込んだ事故に遭遇し、川合は眠れなくなってしまう。収録は単行本4巻(その27)
赤ちゃんを巻き込んだ事故に遭遇し、川合は眠れなくなってしまう。収録は単行本4巻(その27)
[画像のクリックで拡大表示]

タブチ:「トラウマ」ですね。そのあたりで、楽しいだけじゃなくて、大暴れしていいんだという感じになったのはありますかね。むしろ大暴れしないと、もっとセールス、伸びないなというか。

―― 救われないテーマ、笑えないお話でも、編集的に、もうそういう路線が『ハコヅメ』にはあったほうがいいなというふうになって。

タブチ:これをきっかけにTwitterですごく話題にしてくださる人たちが増えたので、伏線も張り、長い話もやり、トラウマに残る話もやりというほうがよろしかろうというのは、何となくありました。

―― 泰さんがそういう方向、本来やりたかった方向に舵(かじ)を切るタイミング、読者がこの人のそういう話を読みたいと思うタイミング、編集さんがこれは商売になるって思うタイミングというのが、だいたい4巻ぐらいだった、だから4巻がひとつの転換点になった、という感じなんですかね。

次ページ 担当編集が長編へと背中を押す