:いやいや、ありがたいですけど、一方で「タブチさんが分かっている話」を描くと思うと、ちょっとやる気がなくなるということがあるんです。

―― 書く側の立場になると、何かそれも分かる気がしますね。目の前の相手の予想の範囲内に収まりたくない。

:「はいはい。こうなるだろうな」とか言いながら読むんだろうなと思ったらもう嫌で嫌で。

―― だから、急にシリアスな『アンボックス』編が始まったりするんですか?

:『アンボックス』についてはタブチさんたちには何も伝えずに、「これから10週、シリアスな長編を描きます」ということだけ了解していただいて。どういう話になるかタブチさんはご存じなかったので。だから、(欄外に編集部が用意する)次号予告のあおり文句がちょっとちぐはぐでしたよね。

―― 「この中に裏切り者がいる」という。でも、あの導入だとそう思いますよね。

:誰も知らなかったので、ちょっとちぐはぐになってしまって。あっ、こういう話なんだねというのは、『アンボックス』10話のネームの時点で担当さんたちは知るという。

―― いや、あれは一人の読者としてはまんまと引っ掛けられて、結果的に素晴らしいあおり文句だったと思いますよ。

:ああ、そうでしたか。

タブチ:まあ、あとやっぱり「最後の晩餐」の時点で、もう読者もそう思っていましたからね。

単行本16巻(その139)より。本編から『別章』への踏み込みがはっきり示された回でした。
単行本16巻(その139)より。本編から『別章』への踏み込みがはっきり示された回でした。
[画像のクリックで拡大表示]

―― あれ、見た瞬間にスマホでググってオリジナルの絵を探しにいって、「ユダはどこだ」と。

:ああ、うれしい。

タブチ:いい時代ですよね。ググればすぐに「最後の晩餐」が見られますからね。

講談社ヤマダさん:「最後の晩餐」の記事を書いている方が、「急にアクセスが伸びて何だと思ったら、『ハコヅメ』という漫画が取り上げたらしい」みたいなお話が、ネットに上がっていました(笑)。

4巻目に付箋がたくさん付いたんですけど

―― 『アンボックス』は、お気楽女子警官マンガ風に見えていた(いる)『ハコヅメ』の底に流れていた大きな伏流のひとつが、大団円を迎えたスピンオフ編だったわけですけれど、恐ろしいのはそう思って読み直すと、他にもいくつもの伏線が隠れていることなんです。じゃ、もう、その話でいっちゃっていいですか。

:はい。

―― 最新の17巻まで単行本を読み返しまして、同じ伏線だと思うところに同じ色の付箋を貼っていったんです。今だいたい4つくらいの大きな流れが入っているのかなという仮説を立てているんですけれど。

:わあ、すげえ。

―― そうしたら気づいたことがあるんです。伏線の始まりになる「くノ一」という回があったのが4巻、それから別の伏線の起点になっているように見える「警察女子会」というお話があるのがこれも4巻。これはちょっと深読みかもしれないんですけど、交通事故処理が主人公のトラウマになっちゃう話があるじゃないですか、あれも4巻から出てくる話で、その後も、いろいろなところでこの要素は顔を出しますね。

 川合と藤の関係性も、頼りない川合が一方的に藤に甘えていたのが、いつの間にか藤を支えるように成長していって、「あれ、いつのまにこんなにいい感じのバディになったんだっけ」と読み返していくと、やっぱり4巻ぐらいから、2人の濃いエピソードがぽつんぽつんと入ってくるようになって。

 そういう目で見ると、こりゃ4巻から「布石を打つ」と決めたのかなと思えるんですね。言い換えると3巻まではわりとシンプルに、1話完結でガハハっとしたお話がほとんどだった。4巻が出たのが2018年の10月、連載を開始したのが17年の11月22日で、約1年。最初の単行本が出てから半年くらいですか。このタイミングで泰さんとタブチさんは、『ハコヅメ』に伏線を仕込み始めたのではないのかな、と思うんですけれど。

:鋭いですね。さすがですね。

―― あれ、当たりですか?

実は5年後の世界から振り返って描いていた

:最初、『ハコヅメ』の連載を始めるときに、実は、今連載している『ハコヅメ』の4~5年後の状況を描くつもりで話を作っていたんです。

―― え??

:なんですけど、制作を手伝ってもらっている私の姉に、ちょろっと「こんな話なんだよ」と説明したら、「これ、(主人公の)川合の新任時代の、藤さんとペアのときの話をしたほうが面白いんじゃない? 分かりやすいんじゃない?」と言われて。

―― ???

:その一言で、この話が川合の新任時代から始まって今まで3年半続けることになってしまったんです。だけど私の意識の中では、どうしても4~5年先の未来から、今の話(連載中の話)を描いているような感覚があって。

―― ……え? まさか連載の最初の最初から、話の展開とオチがある程度できてたってことですか?(心の声:ってことは、じゃ、最初からこれは大長編のマンガだったのか、全然分からなかった!)。

:そうなんです。それでちょっとこう、長編の影を匂わせるという手法をやりたいという話を、連載前にタブチさんにしたんですね。そうしたら「まだそういう段階じゃないですから、日常のギャグ物を力いっぱいやっていきましょう」と言われて、こういうカタチに。

―― すごくびっくりしたので一つずつ確認したいんですけど、つまり最初は、今読んでいるこの『ハコヅメ』の4~5年先の話を描こうと泰さんは考えていて、だけどお姉様がこれはその4~5年前の話を現在の話として描いたほうがいい、というふうに言われたと。

次ページ 警察時代が一番精神が安定してました