(最初から読む→「「ランドセルの絵本」という、とっても大人げない仕事」)
(前回から読む→「ランドセルはどうして日本独自なのか」)
―― 土木建築社会科見学にミリタリー、と、大人の男子が好きな世界をがっつりイラストで紹介してきたモリナガ・ヨウさんが出した子ども向け絵本『らんらん ランドセル』。自分の感想を言えば、最初はタイトルといつもと違う絵柄に引き気味でしたが、「概念や文字では情報を補えない相手に、絵の力でどう理解して、楽しんでもらうか」という視点を入れると、これは大人でもちゃんと楽しめますね。加えて前回は「ランドセル」の持つ意外なまでの「ポジティブさ」についてお話をしていただきました。で、そろそろ。
モリナガ・ヨウさん(以下、モ):そろそろ。
―― 本来の「日経ビジネス」らしく商売のお話にいきたいと思います。モリナガさんに絵本のお仕事を依頼し、編集した萩原由美さん(めくるむ社長)は、大手児童書出版社のポプラ社で500タイトル以上を作られてきた超ベテランとうかがいました。それが、独立・起業して、出版社を立ち上げた。その経緯をうかがいたい。率直に言って、儲かりまっか?
萩:ぼちぼちです(笑)。
モ:なんで大阪弁なんですか。
―― 絵本のビジネスのことは全然わからないので、基本からよろしくお願いいたします。
萩:私が業界のことを代表して話すのはおこがましいので、個人の見解ということでしたら、はい。
子どもがポテチを食べながら
―― まず、ずばり聞いちゃいますけど、ポプラ社さんって絵本業界の中ではどういうふうに見られている出版社さんだったんでしょう。
萩:絵本というか、児童書ですよね。
―― 児童書というのは、いわゆるヤングアダルト小説みたいなものも含むんですか。
萩:含みます。0歳から18歳ぐらいまでの本をすべて含むので、絵本だけじゃなくて、小説も、ノンフィクションもそうだし、工場見学の写真絵本もそうだし、全部含みます。その中にあって、ポプラ社というのは業界の中でどちらかというとエンタメ系が強い。
モ:そうなんですよ。
―― 例えば、作品で言いますと。
萩:『かいけつゾロリ』とか、最近だと『おしりたんてい』とか。『ズッコケ三人組』とか、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズとか。
―― ああ、なるほど!
萩:そう。どちらかというとかしこまって読むよりは、「子どもたちが寝ころんでポテチを食べながら読める本を作れ」と言われてきていた、そういう感じの会社。
―― わかりやすいですね。その言葉は本当にあるんですか。ポテチを食いながら、って。
萩:それは今の先々代の社長がずっと言っていたんです。ポテチを食べながら読めるような、親が買いたい本じゃなくて、子どもが欲しくなる本を作りなさいと言われていた。
―― なるほど。ユーザー目線ですね。
―― はい、そういう会社でしたね。児童書の業界って、どちらかというと「子どものために、教育のために」にみたいな方向が多いんですね。その中で、(ポプラ社は)どちらかというとエンタメ系。
―― 子どもがキャーキャー喜ぶようなのがいいねと。
萩:そう。それをたたき込まれてきた感じです。
―― ご自身は、「そういうんじゃないけどな」と思っていらっしゃったとか?
萩:いや、そんなことないですね。そこはそうじゃない本も作りたいなとは思っていましたし、実際、今めくるむで作っている本はそんな。
―― ポテチな感じじゃないですよね。
萩:そういう感じではないけれども、子どもに喜ばれる本を作ること、そこはすごく大事だなと私は思っていて。
―― なるほど。それは商売としても大事な点ですよね。
ちゃんと儲けようとする、そこがいい
モ:そこが面白い。最初にスカイツリーの本(『図解絵本 東京スカイツリー』)で萩原さんと仕事をするときに感じたんですが、ポプラ社の人なので、やっぱり「いいものを出そう、そのために貧乏になってもいいんだ」じゃないんですよね。ちゃんといいものを出すけれども、商売としても成立させようというバランス感がある人だなというのがあって。スカイツリーの絵本も、他社より先に出す、そして最初に「東京スカイツリー公認」というマークを付けて出しちゃうという。
―― 単に「いい本」じゃなくて「いい本を作って儲けましょう」と。
モ:はい、そういう依頼をしてくる面白さですよね。
―― それがモリナガさんとのなれそめ。スカイツリーをモリナガさんに一番早く描かせようというのは、萩原さんはどの辺から思いついたんですか。
萩:実は「モリナガさんという面白い方がいるから、僕はこの人でスカイツリーの本を作ったらいいと思います」と言ったまますぐ辞めちゃった後輩がいるんですけど。
―― 言うだけ言って(笑)。
萩:それでもう1人、後輩といっしょに2人でスカイツリーの本を担当して、それが最初です。だから私たちがというよりも、その男子が知っていて、こういう本だったらモリナガさんが絶対にいいと思うと。
―― その方はモリナガさんにコンタクトされずに、アイデアだけ出して。
萩:そう。それでモリナガさんに会いに行ったら、「スカイツリーだけはやりたくない」と本当は思っていたという。
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