:「警察官という仕事をする上で、プライベートがあると思う人って何を考えているんだろうね」とぽろっと言った先輩がいて、わっ、気持ち悪と思って聞いたんですけど、本人たちは全然、異常だとは思っていなかったり。

―― 働き過ぎだって、時計を見たら分かりそうなものじゃないですかね。

:あ、そういう方たちは基本、時計は時間を確認するときしか見ないんです。自分がどれだけ寝てないとか、どれだけ仕事を休んでないとかを数えるという、発想そのものがないという。「あ、そうか、生きている間ずっと仕事をするというイメージで生きているんだ」と気がついて。

―― ううう。そこまでして治安を守っていただいて、申しわけない気持ちになってきました。

:私個人の肌感覚ですが、警察の中でももちろん少数の、たぶん1割ぐらいの人がそういう考えで生きていて、その1割のおかげで私たちの生活も含めて、世の中が助かっているなというのはすごく思います。もちろん、決していいことだとは思いませんが。

―― 本当ですね、どちらも。泰さんもそういう世界で生きてこられたわけですか。

:私はそういう人たちにただただ圧倒されていましたね。自分もやっと仕事が終わって、やれやれとくつろいでいると、突然同期がピンポンとチャイムを鳴らすわけです。夜の10時ですよ。「あんた今何時だと思っているの?」と出ると、相手は10時に仕事を上がれて、うれしくてテンションが上がって、「いや、日付が替わる前に仕事を終われたから飲まないと損だと思って」って。「ああ、楽しく生きているのね、よかった」と思って付き合うわけです。

『ハコヅメ』が続くのと新作と、どちらが読みたい?

―― そういう皆さんには、何とか報われていただきたいですね。

:ねえ、本当にそう思います。

―― ですよね、せめて作品の中だけでも。源さんは山田君と一緒にいるときに心からくつろげているのでしょうか。

:源は山田といるときが一番楽しいと思います。楽しくて、くつろげていて、楽に生きていられると思います。

―― やっぱり源さんのラストリゾートは山田君なのか。それを山田君も知っているから1人だけ幸せになれないんじゃない? という話も出ました。

:ああ、なるほどね。

―― しかも誰かが山田の嫁になろうとしたら、藤と源の2人のチェックをくぐり抜けないといけないのか、みたいな節もあり。

:あはは。

―― これはもう、源、藤、山田の3人で同じマンションに住むしかないんですかね。

:それが一番平和なんでしょうけどね。

―― さて、そろそろ本題に入りますね。実は、第1部完を迎えられるということが公開される前にこちらの読書会に行ったので、「このまま『ハコヅメ』が続くのと、いったん最終回になって新しい泰さんのマンガを読むのとどっちがいいですか」を、聞いちゃったんですよ。

:おお、気になる。怖い(笑)。

―― 読書会に参加された方は皆さんファンの中でも相当濃い人々なので、一般的というか多数派の答えじゃないかもしれませんけど、ある方が「終わったら続きを妄想したいと考えちゃうのがオタクで、次の新作を早く読みたいと考えるのが普通のファンだと思う」と。なので、最終回がないということだけは耐えがたいんだけれども、きちんと終わらせて次を読ませてくれるというなら歓迎です、と言っていました。

:ふーん。

―― そして、「頼むからライフワークというのはやめてください」と。

:ああ、なるほど。

タブチ:ああ。終わらないのはイヤだってことですね。

:読者としては最終回が欲しいと。

『仕事論』の「身上調書」が全キャラ分欲しい!

―― 「最終回が欲しい」というのは、わりとはっきり皆さんおっしゃいましたね。

:へえ、そうなんだ。

―― 一時休載発表の後で、東京のファンミーティングにもちょっとだけ顔を出してきたんですが、そこでは「休載は受け入れる。新しいマンガも読みたい。でも、ファンブックは出してほしい」と。

タブチ:ファンブックというのは。

―― 『仕事論』の、課長4人衆のページ、あれが全員分欲しいそうです。

タブチ:確かに面白いですよね。

―― ねえ。改めて宣伝させていただくと、あの4ページは文章も切り出したコマも、泰さんご自身のものですから。「部下から見ると?」という質問は私からですが、お答えも泰さんの生の文章です。

『「ハコヅメ」仕事論』231ページ。泰さんによる登場人物の「身上調書」のメモをそのまま再現!
『「ハコヅメ」仕事論』231ページ。泰さんによる登場人物の「身上調書」のメモをそのまま再現!
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―― 「ファンブックも難しいなら、せめて、登場人物たちの誕生日を公式がツイートしてくれないか」という、涙ながらの声もありましたよ。その日を祝いながら再開を待ちたいそうです。こちらも聞いていて泣けました。

タブチ:誕生日ですか、なるほど。

―― と、お預かりしたファンの皆さんの言葉のごく一部をお伝えしました。

:ありがとうございます。

―― で、ですね、私からは「なぜ今」というのをお聞きしておきたいんです。

タブチ:なぜ今。

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