おっさん世代は鈴木さんに萌える

―― 宇津帆の話は出ましたが、あともう1人2人、登場人物の話をお聞きしてもいいですか。主人公のファブルこと佐藤 アキラ(岡田准一)、ヒロインの佐羽ヒナコ(平手友梨奈)は、きっと他のメディアでたくさんお話しされているでしょうし、おっさん読者が多い日経ビジネス電子版としては、やはりおっさんに注目したいです。

江口:いいですね、確かにお二人以外について話せる機会ってないですからね。

―― ありがとうございます。実は、個人的に一番好きになっちゃったのが、アキラをライバル視する殺し屋の鈴木(安藤 政信)。原作の時点から相当面白いキャラクターでしたけど、彼もまた、ただのこわもてチンピラかと思いきや、変に正しく自己認識しているし、感情の動きが人間らしくて、面白い人ですよね。

凄腕の殺し屋、鈴木(安藤 政信) ©2021「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」製作委員会
凄腕の殺し屋、鈴木(安藤 政信) ©2021「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」製作委員会

江口:実は登場人物たちがみんなエキセントリックな中で、彼が一番「人間だな」と僕は思っているんですよ。

―― そう、ある意味まとも。殺し屋だけど(笑)。

江口:まともですよね。

―― 殺し屋を仕事と考えれば、ですけれど、冷静に自己認識していて、努力も欠かさない。仲間も守ろうとする。突き抜けたところはないんだけど、能力のバランスがよさそう。おそらく相当完成度の高い仕事人だろうと思わせます。ムダな殺しをしたがらないし。一緒に働くなら鈴木さんがいいな(笑)。

江口:彼には一応、美学があるんですよね。

―― 美学ですか。

江口:例えばアキラがオリンピック選手だとしたら、鈴木は大阪とか近畿の地方大会とかでは……。

―― 優勝する感じで。

江口:そう、でもそこまでだと。そんな鈴木が、初めてオリンピック選手を目の当たりにしたときに受けるショック、そこで折れるのか、勝ち目はなさそうだと知りつつ挑もうとするのか、まあ、それがやりたかったんです。

―― 劇中でファブルに挑んだ鈴木さんは、殺し屋として猛烈な挫折を味わいます。自らの力が及ばないことを思い知るあの場面と、そこから意地を見せる展開がよかった。ちょっと鈴木さんを励ましたくなったりして。

江口:本当は、鈴木だって相当強いんだというのを見せつけるためのシーンを脚本に入れていたんですけど、どうしても「単に入れるだけ」みたいに浮いちゃっていたのでもう思い切ってカットしたんですよ。でもその分、安藤さんと現場でいろいろ話しながらキャラを作っていったんです。

―― 「鈴木も相当強いんだろうな」というのは、観ていて自然に思えました。

江口:よかった(笑)。安藤さんもすごくそれを楽しんでくれていたのが幸いしたんじゃないかと思うんだけど、やっぱり彼がこてんぱんにやられるところ、あの、泣きべそかきながらみたいな、あの辺を思い切ってやれたことで、むしろ「彼もまあまあ強い、けれど、普通の人間なんだ」というところが伝わったんじゃないかと。

―― ある意味アキラが目指す「普通」の人間に近いのが鈴木さんだったりするのか。

江口:そう、2人のコントラストでそれを描けたのが面白かったですね。

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