
「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」――どんな相手も6秒以内に仕留める伝説の殺し屋“ファブル”(岡田准一)。ある日、ボス(佐藤浩市)から「一年間、誰も殺すな。一般人として“普通”に生きろ」と命じられ、佐藤アキラという偽名で、相棒・ヨウコ(木村文乃)と共に一般人のフリして暮らし始める(映画ホームページより抜粋)
人気コミック『ザ・ファブル』(作:南 勝久)を映画化したこの作品は、新型コロナの直撃を受け、制作、公開ともスケジュールが大変なことになりました。コロナ禍と戦った側面にも触れつつ、監督の江口カンさんにお話をうかがいます。(聞き手:編集Y)
(映画の予告編はこちら)
(「その1」はこちら)
―― アクション映画として「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」(2021年6月18日公開)を見ると、団地の大規模修繕の足場を使ったあの大立ち回り。あれって、一種発明じゃないかと思ったんですけれど。
江口カン監督(以下、江口):あ、あんまりやられてないのかな(笑)。
―― よく街中でも見るマンション改修の足場は、そうか、これって格好のアクションの舞台だったのか、と。
団地アクションのリアリティと意外なメリット
江口:そうなんですよ。そもそも何であの団地でやろうと思ったかというと、原作の『ザ・ファブル』(作:南 勝久)で、アキラ(岡田 准一、主人公ファブルの偽名)が宇津帆(堤 真一)のマンションに行って、ドアが爆発するシーン。あそこはもうすごい名シーンだなと思っているんです。構図とかもめちゃめちゃかっこいい。前に申し上げたように、動きのある場面が少ない「宇津帆編」をアクション映画にするためには、あそこと、あとは駐車場の場面を膨らませるしかないな、というのは早くから思っていたんですけど、だったらマンションそのものをぶっ壊していくぐらいなことを考えないとダメだな、と。

―― 建て直すマンションで撮影して、みたいな。
江口:『童夢』というマンガ、あったじゃないですか。
―― 大友克洋さんの出世作ですよね。
江口:あんなふうに団地そのものをぶっ壊すか、みたいなことを考えていた時期もあったんですけど、原作の『ザ・ファブル』を読んで本当にいつも「なるほど」と考えさせられるのが、やっぱりリアリティーとのバランスなんです。
―― あ、そうですね。
江口:マンションをぶっ壊したら派手にはなるけれども、さすがにリアルじゃない。詐欺師の宇津帆が、そこまでのことができる集団をつくれるのか、だったらファブルを倒すために別の手も考えられるんじゃないの、みたいなことがやっぱりちらつくわけです、頭の中に。
―― 宇津帆なら、物量よりむしろ意表を突く手を繰り出してきそうです。
これなら「人を殺さない」縛りが生きるじゃないか!
江口:というわけで、「リアリティがあって壊せそうなものって何かないかな」と考えていたときに、たまたま足場を思いついたんです。これが結果的に面白いのは、アキラは「人を殺さない」という縛りを受けているわけですが、団地の工事員に扮(ふん)する敵たちは、襲ってくる際に当然ながら、命綱を付けているんですよ。
―― なるほど(笑)。死ににくい状態で襲ってくるのがリアル。
江口:そう、死ににくくなっていて、だからどんなに落としても彼らは死なないという前提がつくれるし、そして何より、本来アクションものって命綱を付けて撮って、合成で消すんですよ。ところが「これだったら消さなくて済むな」という(笑)。
―― なるほど、手間も減ると(笑)。すばらしい。
江口:手間も大幅に減る、いいこと思いついたと思って。
―― 江口さんが思いついたんですか。すごいじゃないですか。
江口:僕なのかな、みんなでいろいろなことを話しながら、考えながら思いつくんですけど。団地そのものが日本っぽいし。あれは本当に解体寸前の団地を見つけてきてくれて。昔の、ちょうど僕らが子供のころの団地ですよ。
―― そうですね、昭和40年代な感じですよね。
江口:僕自身が小学校までああいう団地に住んでいていたので、ザ・日本というか、昭和の日本だし、「団地、やっておきたいな」という思いは実はずっとあったんですよね。
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