江口:飲んでいると登場人物たちが続々現れるんですよ、マンガと同じ顔の登場人物たちが。

―― 面白い! これ、NGじゃないといいな。

江口:ユニバーサル・スタジオか、ここは、という。

―― すごい。佐藤アキラ(殺し屋「ファブル」の偽名)は来ましたか。

江口:彼は来ませんでしたね(笑)。

―― それで、難しい宇津帆編を映画化することに江口さんも納得して。

江口:実は、先生と“山岡のアジト”で話したとき、「(続編は)宇津帆編でいってほしい」というお気持ちはとてもよく分かったんですが、それ以上の方針や具体的な内容の話にまでは至らなかったんです。どうしたもんかと思いながら周りを見まわしたら、リュック・ベッソン監督の映画「レオン」のポスターが貼ってあった。

―― ほうほう。

江口:最初は単に「南先生、レオン好きなのかー」って思ってたんだけど、「よく考えたら、アキラとヒナコはレオンとマチルダやん!!」って、そう思うと、俄然面白く作れそうな予感がしてきまして。

―― なるほど!

江口:先生、わざと貼ってたのかなあ、「レオン」のポスター。

―― 実際に会ったからこそのひらめきでしたね。

江口:そして、この話はやっぱり宇津帆のキャラクターがすごく面白いので、これをまずどう伸ばすかなと。そう思って結構いろいろ考えたんです。キャスティングは堤(真一)さんでいこうとなって、そこで堤さんとお話ししました。

―― ドの字が付く悪党で、魅力的だけどつかみどころがない、理解が難しいキャラクターですよね。

江口:うん、それはなぜかというと、彼はいいことをするときも、悪いことをするときも、いつでも自分の中に「これは正しい」という確信を持っている。だから、いいことをしているときも、悪いことをしているときも同じ顔なんです。

―― あ、なるほど!

江口:そういうキャラクターにしましょう、と、堤さんと話し合って決めたんです。

©2021「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」製作委員会
©2021「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」製作委員会

―― 私、実は「この男、何考えてるのか分からないぞ」と、ちょっとイライラしながら見ていたんですが、団地の大立ち回りのラストで、アキラが予想外の-----を見つけるじゃないですか。あそこで、「宇津帆! お前ってやつは!」と、ぐっと心をつかまれました。あの瞬間、「この魅力的な悪党が最後どうなるか見たい!」と思いましたね。まんまとやられました。

江口:はい、早い段階で堤さんと一緒に、宇津帆のキャラクターを作る言葉が見つけられたのが大きかったかな、という気はしますね。

約束を守り、責任を果たそうとする人

―― もうひとつ、これは第1作から共通しますが、もっとも異常、非日常のはずの元・殺し屋、ファブルこと佐藤アキラが、「普通」にこだわるところの面白さですね。「約束を守る」とか「人に迷惑を掛けない」とか。

江口:「責任」とかね。

―― 一番異常なヤツが一番普通にこだわる。それが異様でもあり、面白さでもある。原作も同じなんですが、やはり実写ということもあって、映画を見て改めて気付かされたように思います。

江口:そうか、そこはそうか。そう言っていただくとすごくうれしいですね。原作の面白さに、映画をやることで別の光が当たって新しく見えてくるものがあれば、それは最高だなと思います。例えばそれって、やっぱりあのキャラクターを岡田准一が演じるからみたいなところもあると思うんですよ。

―― もちろん。

江口:本人の意識も今はもう「アイドル」とは思ってないと思いますけれども、元アイドルであるというその彼が演じるからこそ、あのアキラが「普通」とか言っているということとのコントラストが際立つ。たぶん、そういうことじゃないかなと思うんですよ。

(写真:大槻 純一)
(写真:大槻 純一)

 実写映画を見る人って、心のどこかでやっぱり演じる役者そのものの人生とちょっとダブらせて見ていると思うんですよね、どこかで。作り手としてはそこから、そんな冷静な意識からもっと映画に没入させていかなければいけないんですけど、入り口としてはやっぱりそうなので、それによってあぶり出されていることって絶対あるはずなんですよね。じゃないと、全部アニメになっちゃうから。

―― なるほど……。

江口:そうなんですよ。僕はそういう意味で、マンガを実写化するって、そもそもやっぱり、実写化の時点でどうしてもひずみやねじれは生じるなと思っていて、その大きな理由は、演じる役者そのものの人生とかが重なってきて、何かもっと全然違うものが重層的にあぶり出されてくるからじゃないのか、と思うんですよね。

(その2に続きます。明日掲載予定です)

この記事はシリーズ「編集Yの「話が長くてすみません」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。