江口:プロデューサーが本当にそう思っていたのかは分かりませんよ。例えば、僕の「ガチ星」を見て、「この人、放っておくとどんどんダークなものにしそうだな」と警戒して一言言っておこうとしただけかもしれません(笑)。でも、何か面白いのでちょっと乗ってみようかなと思って。それで1作目は、全体の色調とか、お話のトーンとか、芝居のトーンとか、そういうものを、わりとパカッとさせて。

―― パカッとしていますね。

江口:「何も考えずに見て爽快になれる映画」をやってみようかな、やってみたいなと思ったんですよね。結果的に、観た人からもよくそう言われますが。

 ただ、原作が持つトーンって、さっき言われたように、やっぱりそれ(映画第1作)とはだいぶかけ離れていて。僕、わりとエゴサーチするので、Twitterとか見ていると、原作ファンの中で半々ぐらいだと思うんですけど、評価は真っ二つでした。

 「映画は映画で面白いじゃん」という人もいるけど、「あまりにも世界観が違い過ぎる」ことが引っ掛かる人もいる。僕もそこはやっぱり最初から、えっ、本当に「スパイダーマン」でいいのかなと思ったんですけど、まあ、やってみたと。

―― 「炭酸強めの映画も作れますよ」という、メジャーデビューの名刺として。そしてヒットにもつながったわけですね。

思惑にはまりにくい原作をどうしよう

江口:そして映画の2作目、今回の「殺さない殺し屋」で、扱う内容が宇津帆(うつぼ)編となった。原作のこのパートが、(爽快感を狙った映画の1作目とは)さらにまったく雰囲気が違うわけです。

―― 原作ですと9巻から15巻ですね。改めて読み返したんですけど、いや、思った以上に面白く、かつ、地味というか静かな見せ方だったのでびっくりしました。

江口:そう、一見地味なんですが、やたらと面白いんですよ。何だろうな。地味にしたいと思って描かれたわけではなくて、まず悪役の宇津帆のキャラクターが面白かったし、そして彼を取り巻く人々の不思議な人間関係、チームが面白い。そこに面白さがあるから、地味に見えても読むと驚くほど盛り上がる。

 だったら、もっとそっち(宇津帆とそのグループ)に焦点を当ててやってみたいなと、それが結果的に、そもそも第1作のときから思っていた原作のトーンにもうちょっと寄せることができるし、映画になったときにも見応えにつながるんじゃないかなという予感があったので、雰囲気を変えてみたわけです。

宇津帆とそのグループ。左から井崎(黒瀬 純)、宇津帆(堤 真一)、佐羽ヒナコ(平手友梨奈)、鈴木(安藤政信) ©2021「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」製作委員会
宇津帆とそのグループ。左から井崎(黒瀬 純)、宇津帆(堤 真一)、佐羽ヒナコ(平手友梨奈)、鈴木(安藤政信) ©2021「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」製作委員会

―― 第2作は宇津帆編だよ、というのは、第1作の完成時点で考えていたんですか。

江口:「宇津帆編は面白い、面白いけれど、やっぱり映画にするのは難しいよね」という話はしていました。第1作はおかげさまでヒットしましたので、当然、松竹さんも、「やっぱり前作のトーンで、すかっと頭を空っぽにして見られる楽しい映画を」と期待されていたと思います。そうなると、宇津帆編はやっぱりはまりにくい。

―― なるほど。

江口:だったんですが、原作者の南先生が宇津帆編に強い思い入れをお持ちで、「続編をやるなら宇津帆編からやってほしい」という話になって。それならば、ちゃんと南先生とお会いして、しっかりお話しする時間を取ってご相談しようと考えて、アトリエに伺ったんですね。

―― おお! どこにあるんですか。

江口:大阪の岸和田。

―― 原作そのまんまですね!

江口:打ち合わせに使った先生の部屋が原作の山岡のアジトそのもので、そこでお話ししたあと、飲みに連れて行っていただいたバーが、ヨウコが男を酔い潰すバーだったし。

―― 実在するんだ、あれも。

江口:マスター、同じ顔ですし。

―― 同じ顔しているんですか(笑)。

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