
江口:いや、僕はマンガはあんまり読まないので知らなくて、一番最初、まだ僕で正式にいくかどうか分からない段階で、何となく……面談? みたいなのがあったときに、「殺し屋の話」ということだけは聞いたんですよ。それで、周りの連中に「今、コミックで殺し屋と言ったら何?」と言ったら、全員迷いなく「そりゃファブルでしょう!」と言うので、それで読みましたね。
―― 映画会社にそういうふうに曖昧な感じで呼び出されて、「こいつ監督にどうかな」という値踏みをされるわけですね。なるほど。
江口:まあ、やっぱり(値踏みは)しますよね。
―― そういう方々は、江口さんの「ガチ星」についてどういうふうに見たんでしょうね(こんな映画です→「戦力外通告を突きつけられた人はどうするべきか」)。
江口:そのとき言われた話ではないんですが、「ガチ星」って、いい意味で業界の中ではわりと有名になったというか、面白がられたんですよね。ご存じのように興行収入とかはそんなにないんですけど、同業者とか監督とか、業界の人たちからは軒並み評判で。
―― どの辺がその理由だと思われますか。
江口:たぶんあんまり……何ていうんですかね。あれ、本当に自主制作みたいなものなので、やっぱり媚びずにやったところじゃないですか。媚びずにやった結果として、構造が面白いですよね。
―― 構造。
江口:「主人公の気持ちがここでこう変わるだろう」という転換ポイントが、普通来るところで来ない、来そうで来そうで、でもいつまでたってもなかなかこない、という。
―― そうそう、見ているほうは主人公の、福岡ダイエーホークスをクビになって自堕落に生きる濱島に「お前、いつまでそんななんだよ」と、いらいら、いらいら、いらいらして……。
江口:そういう構造はあまりやらないと思うので、面白く映ったんじゃないかと思います。そして、それで成立するということは、観ている人を画面に引きつけ続けることができている、と思うんですよ。
なぜ『ザ・ファブル』実写化のオファーが自分に来たのか
―― なるほど。言われてみれば、競輪選手というマイナーな題材をマニアックに扱っているのに、妙なメジャー感があって目を離せないという。
江口:たぶんそういうのってリズムとかそういうものがあるんだと思うんですけど、これは僕の気質だと思うんだけど、どうやったってそうなっちゃうんです。たぶんせっかちなせいですね。
―― せっかちだから、人を引きつける演出が生理的に得意なのかもしれない。
江口:この気質のせいで、世間的に評価が高い映画でも、ちょっと飽きちゃうともう見ていられないんですけどね。
―― 江口さんで『ザ・ファブル』を実写化、と聞いたときに、おお、なるほどと思ったんですよ。
江口:思いました?
―― 南先生の原作は、どこかダウナーな雰囲気と、でも厭世(えんせい)観はないメジャー感が両立している不思議なマンガだと思います。そして日本最大手出版社である講談社が出す週刊コミック雑誌(「ヤングマガジン」)という大舞台でずっと好評を得ている。メジャー感とマイナー感のバランスの絶妙さみたいなところが、江口さんの映像作品と似ているんじゃないかと。
江口:(笑)
―― 先ほどの(監督オファーの)面接の際には、こんな感じで「江口さんのこういうところが欲しいんです」、みたいなことを言われたりしなかったんですか。オファーの席ではどんな話をするんでしょう。
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