感染者数が少ないほど、検査を増やすことが有害になる理由
編集Y:え、感染者が少ない方が問題は深刻になる、なぜですか?
峰:考えてみてください。実際の感染者数が少なくても、検査を受ける母数は変わらないんですから……。
編集Y:あっ、今度は偽陽性の人、本当は感染していないのに「大変だ!」となる人の割合が跳ね上がるのか。
峰:そうです。感染者は1万人しかいないのに、間違って陽性だと判断される人が10万人出てしまうことになります。感染者1万人のうち検査で陽性と判断されるのは7000人。つまり、検査で「陽性だ」と言われた人の中で、本当に治療が必要な陽性の人は、たったの6.5%しかいないことになります。
編集Y:……そして10万人の、本当は陰性の人たちが意味なく2週間入院・隔離になってしまう。まさに医療リソースの乱費の発生だ。
峰:おまけにこの場合も、偽陰性の人は3000人発生してしまうわけです。
「不安だから検査したい、誰にも迷惑をかけたくない」という気持ちはよーく分かりますが、自己申告検査は、偽陰性・偽陽性ということを考えると有害にもなり得るということが、だいぶ知られてきたかなと思っています。
編集Y:なるほど……不安だからと検査に行っても、繰り返しになりますが「陽性の確定」には使えても「陰性であるという証明」にはなりにくいんだから、そもそも意味がないですね。え、ということは、「陰性の証明をしないと出社させない」とか「入国させない」とかいうのは、理屈としては破綻しているわけですか。
峰:そうです。そして仮に、100%の感度、100%の特異度の検査がもしあったとしても、検査を終えた次の瞬間から飛沫・接触感染する確率はゼロじゃないですから、本当に意味がないんですよね。そもそもPCR検査数って、どこの国が一番多いかご存じですか。
編集Y:えっ。中国?
峰:いや、絶対数で言ったらイタリア、英国、米国が多いんですよ。
編集Y:感染者数も死者も多いですよね。「たくさん検査をしているから、感染者が見つかる数も多い」ということですか?
峰:いやいや、申し上げたいのは、「PCR検査は絶対数で考えてもあんまり意味がない」ということです。1人の死亡者当たりのPCR検査数だとか、1人の感染者当たりのPCR検査数、という考え方が重要になるんです。その国の流行の状況に比べて、検査数がどうかを考えないといけないんですよね。今回は人口当たりで、よく100万人当たりのPCR検査数というのが出ているんですけど、これには流行状況が加味されてないわけですよ。
編集Y:えーと……流行状況。
峰:たとえば1日に400人以上死んでいる米国と、1日に7人ぐらいしか死なない日本で、PCR検査の数が違ってもあまり意味がない。
編集Y:やればやるほど、偽陽性も偽陰性も出てくるんだから、流行状況が穏やかなときにガンガンやっても、医療機関に負荷をかけるわ、偽陰性の人が安心しちゃうわ、いいことがない。
峰:一方で、感染者数や死亡者数で割った値というのは結構、インジケーターになるんですよね。
編集Y:あ、つまり「有効打が出る検査をやっているか」を考えろ、と。そもそもPCR検査は、偽陰性の問題があるわけだから、検査をやって、陽性の人がたくさん見つかるかどうかの「打率」を見ろ、というわけですね。
峰:そうそう。そういう目で見ると、実はニュージーランドがすごいことが分かってきます。国境閉鎖と厳しいロックダウンを行い、その上でめちゃめちゃたくさんのPCRをやって、4月末で収束させた。だから、「検査をやりまくって感染者を拾い出しまくって、抑え込みに成功」した国は確かにあるんです。ニュージーランドは人口は約500万人と小さい国ですが、人口が大きい国だと韓国とドイツが高いです。主要国では韓国とドイツの次に多いのが日本です。
編集Y:しかし、米国や英国、フランスは、検査数に対する感染者数の比率も日本よりだいぶ高いですね。これは「打率が高い」ことにはならないんでしょうか。
峰:先ほどご説明したように、日本と異なり検査前確率を考えず、検査数が桁違いに多いのですから、偽陽性の比率が高くなるでしょう。そしてなにより、実際にCOVID-19による死亡者数が多いということは、彼らが感染者をうまく拾い出せているとは言えない証明だと思います。
編集Y:そういえば「検査を増やさないといずれ日本も、米国、英国みたいになる」とよく言われていました。
峰:日本は打率が高くて、それでも陽性率は低いんです。まあ、10%いかないぐらいなんですね。ということは、十分拾い上げができていると思っていい。
編集Y:そう言える根拠はなんでしょうか。
CTスキャン普及率の高さが寄与か
峰:検査前確率を上げている上に、韓国、日本ではコンタクトトレーシングといって、接触者調査をめちゃめちゃ細かくやっているんです。これはニュージーランド、オーストラリアも同様です。
ところが、英国、米国はコンタクトトレーシング、クラスター対策というのはまぁほぼ一切やっていません。というか、できないんです。どこでクラスターが発生しているかも、彼らはまったく認識できていません。
だから、戦術でいったらもう、艦隊から偵察機を360度全方向にいっぱい飛ばして、とにかくどこに相手の艦隊がいるのか探せということで、乱れ打ちPCRをやっているみたいなもので、効率が悪過ぎるんです。
編集Y:全方位に多段索敵。人員と飛行機と燃料がいくらあっても足りないし、増やしすぎると誤報や未帰還機も多くなる。それ、ミリタリー好きには「やっちゃダメ」だと分かり過ぎる例えです。
峰:だから、まずはPCRの質が違う。患者数、死亡者数当たりのPCR数が違う。さらに実は日本にはもう1つのアドバンテージがあるんです。それは、国民1人当たりのCTスキャンの普及率が非常に高いことです(100万人当たり107台、OECD平均で25台)。
編集Y:はあ、そういえば近所のお医者さんで使ってもらったかも。こういうのは国際的には珍しいんですか。
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