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他の感染症と比較すると、新型コロナウイルスが見えてくる

:この先を理解しやすくするために、ちょっとだけ基本的な数値の話です。基本再生産数とは、集団のすべての人に免疫が付いていない状態において、1人の感染者から何人に感染させるかという平均値なんですね。つまり、1人の人が2人にうつせば2ですし、1人の人が平均して3人にうつせば3ですし、1人の人が誰にもうつさなければ0になるわけです。

 この最初の435例が報告された時点でR0は2.2、つまり、だいたい1人が2.2人にうつすという結果になりました。西浦班で使っているR0、これはドイツでの推定値を採用していて2.5なんですね。なので、だいたい1人が2.5人にうつすということは、一世代ごとに2.5倍、2.5倍の2.5倍というふうに増えていくわけです。そして、実効再生算数によって感染しやすさが評価できるんですね。

編集Y:あ、ちょっと待ってください。基本再生産数と実効再生産数はどこが違うんですか?

:基本再生産数は「免疫がない」、何も対策が講じられていない状態での再生産数、実効再生産数は、免疫やワクチン、あるは外出規制などの対応策が取られている現状での再生産数です。

編集Y:実情に近いのが実効再生産数なのか。R0で比較するのは、生の感染力を比較するためなんですね。

 ちなみに、初期435例の「R0=2.2」の報告は中国のものですね。ドイツの数字のほうが大きい(R0=2.5)のは、サンプルや環境の違いでしょうか。

:はい、条件が同一ではないので、ブレが生じているということだと思います。日本では、ドイツの値を採用したわけです。

 R0の値を他の感染症と比べてみてください。似ているウイルス、SARS-CoVでは2から5だったので同じぐらい。MERS-CoVは1より小さいので大規模な流行が起こらない理由が分かります。再生産数が1より下だと自然終息します。1人が1人にうつすか、うつさないかですから。インフルエンザは1から3程度といわれていますね。なので、インフルエンザと似た感じぐらいの広がり具合かなと最初は思っていたわけです。

編集Y:再生産数は何によって変わってくるのでしょう。

:ひとつは感染経路です。空気感染をするウイルス、例えば、麻疹(ましん、はしか)。感染経路に「飛沫核感染」と書いてありますよね。

編集Y:ん? あ、他は「飛沫感染」で、これは「飛沫“核”感染」ですか。……ごっちゃになりそうだ、分かりにくいな。

:「核」の有無で意味が大きく違いますね。ウイルスの周りを唾液などの水分が取り巻いている「しぶき」を「飛沫」と言いまして、サイズも5マイクロメートル以上と大きく、重いので速やかに落下します。水分が蒸発した、ほぼウイルスだけで浮遊するような状態が「飛沫核」で、これは空気中を長時間浮遊することになるので、感染力が桁違いになるのです。麻疹はR0が18近くあります。つまり、1人が18人ぐらいにうつしてしまう。

編集Y:新型コロナウイルスはどうなんでしょう。

:空気感染(飛沫核感染)しないということもありますし、ここに挙げたものの中ではインフルエンザに近いかなという感じです。致死率ですが、季節性インフルエンザでは0.1%未満というのが一般的なので、それに比べると2%近い今回のウイルスは、やや高めであることは確かです。

編集Y:なるほど。感染力はインフルエンザ並み、致死率はちょっと高い。「対策が大げさだ、ちょっとヤバいインフルエンザ程度じゃないか」という声が出るのは、この辺を見てのことかもしれませんね。

:……いやいやいや、インフルエンザにはワクチンもありますし、感染者の発見も容易です。全然状況が違います。SARSコロナウイルス2に厳重な対策が必要なのは、自覚、診断、隔離が難しくて、特効薬やワクチンもないからです。拡大したら止める術がない。

 感染が一気に広がれば、その大半が軽症者だとしても、重症者も確実に増えますので医療機関が対応できる限界を超え、診療ができなくなれば、死者の絶対数も増えてしまうでしょう。

編集Y:そうか、これはR0だから、すでにワクチンがあるウイルスのRはもっと低いわけですね。

:今回の新型コロナウイルス対策で大事なことはこの三角形なんです。

編集Y:はい。

:重症と死亡を合わせたこの上の2つの部分、SARSに感染した人は、その多くがここに含められていたんです。つまり、SARSコロナウイルスに感染してしまうと、たいていの人は重症になってしまうか、死んでしまうんです。かかればはっきり体調が悪化するので、本人が進んで医療機関を受診しようとしますし、症状が重いので診断も容易。ということは、隔離も容易ですし、接触者の追跡も可能で封じ込めができるんです。

編集Y:あ、となるとMERSは致死率が“高すぎ”て、感染者が出歩いて広げることができないから再生産数が上がらない、ということですね。

:それに対して、今回のSARSコロナウイルス2は軽症、無症状が非常に多い。だいたい40%から44%ぐらいは軽症、無症状のゾーンに入るといわれています。そうすると、体調が悪いと自覚できませんから医療機関を受診しない。受診されなければ感染を確認する機会がない、ということは隔離ができない。感染者の4割が自覚なく感染を広げてしまうというのが、大きな特徴なんです。

編集Y:だから「自覚のない人も含めて、大規模な感染チェックをやるべきでは」という意見が出てきて、それが、PCR検査増を求める声につながったのでしょう。検査の話はひとまず置きまして、感染経路の中心は飛沫感染、接触感染とおっしゃいましたが、これはどうやって起こり、どうやれば防止できるのか、引き続きお伺いします。一息入れて後半へどうぞ。