研究は実は超高速で進んでいる

 まず、「コロナウイルス」というものは何なのか、からお話ししたいと思います。よく使われる「COVID-19」(コビッド・ナインティーン)、新型コロナウイルス感染症というのは、COVID-19という“病気”の名前なんですね。ウイルスの名前ではありません。

編集Y:「COVID」って、そもそも何のことなのでしょう。

:「COronaVIrus Disease」ですね。そこに2019年の19が付いて、2019年に発生したコロナウイルスによる疾患、という意味です。

編集Y:専門用語かと思ったら、割とシンプルな言葉なんですね。

:ご存じと思いますが、コロナウイルスというのは、いわゆる風邪(普通感冒=上気道の急性の炎症)を起こすウイルスのひとつです。他にはライノウイルスとかRSウイルスとかヒトメタニューモウイルスとか、いっぱいあるんですね。ウイルス以外の原因による風邪もあります。

 コロナウイルスにはこれまでに判明しているだけで6つの種類がありまして、そのうちの4種類が普通感冒の主な原因になります。風邪のうち10%~35%はコロナが引き起こしていたと思われます。つまり、非常にそこら中にいるウイルスです。

 その4種類とは別に2種類、「重症急性呼吸器症候群」、はい、「SARS」ですね。そして中東で今でもくすぶっている「中東呼吸器症候群(MERS)」、この2つの病気の原因となるウイルスがあります。

 今回の新型コロナウイルスの名前は「SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)」と付けられました。SARSを起こすコロナウイルス(SARS-CoV)によく似ていたことから命名されたわけです。コロナウイルスの中で7番目に見つかった、人に感染するウイルスになります。ここが一番大事です。

編集Y:SARSのウイルスとの類似性の高さが、もしかしたら攻略の鍵になるかもしれない、という意味でしょうか。

:その通りです。

編集Y:SARS、MERSって、どういう経過をたどったのでしたっけ。

:SARSは2002年に発見されて、2003年に大流行となりました。主に中国で流行して複数の国に広がりましたが、日本には一切入ってきませんでした。

 SARSは致死率がおよそ10%あったんですね。今の新型コロナウイルスは致死率が2%ぐらい、もう少しデータがそろって精度が上がってくれば、0.数パーセントまで落ちる可能性があります。大きな差があるわけです。重大な感染症でしたが、実は8カ月間で終息して、完全にこの世の中から消えました。

 MERSはヒトコブラクダ由来のコロナウイルスが起こす感染症で、2012年発見され韓国で一時流行しました。今でも中東でぽろぽろはやっていまして、致死率が35%ぐらいあります。10人かかれば、4人が死んでしまうというような病気です。このウイルスもSARS-CoV-2と少し似ているんですけど、やはりSARS-CoVのほうがずっと類似性が高い。

編集Y:なるほど。

:さて、今回のお話に移りましょう。発端は去年の12月31日、大みそかです。中国の武漢の海鮮市場で27人が肺炎になった。その報告からわずか10日間でウイルスが同定されました。これはすごいことです。

 最初は「2019-nCoV」、ニューコロナウイルスと暫定的に命名されたんですけれども、その翌日までには何とゲノムがすべて解読されました。ゲノムというのは遺伝情報、生命体の設計図です。その設計図が全部明らかになって、過去のコロナウイルスとの比較がなされて、「SARSとは違う。でも、SARSにそっくりだ」と、10日間で判明しているんです。

編集Y:ちなみに、SARSの場合はどうだったのでしょう。

:2003年のSARSの時期ですと、同定するのに1カ月近くかかっています。3倍以上で進んだと言ってもいいと思います。

 その後も研究の進展はけっこう速くて、1月の23日、約3週間後には基本的なうつりやすさも分かってきました。1月30日、発見から1カ月後にWHO(世界保健機構)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言しています。日本でもその翌々日には前倒しで指定感染症、検疫感染症に指定されたということで、非常に歩みが速かったわけですね。

 2月の11日、ちょうど建国記念日でしたが「International Committee on Taxonomy of Viruses」と言って、ウイルスの名前を付けている国際学術委員会があるんですけれども、そこがこのウイルスの名前をSARSコロナウイルス2に正式に決定しました。ウイルスの名前はSARSコロナウイルス2、このウイルスによって起こる病気がCOVID-19、という使い分けをするようになったんですね。

 その後、急激に世界に広がりまして、3月7日には世界の感染者数が10万人を超え、4月2日、約1カ月で世界で100万人を超え、あっという間に中国の病気から世界の病気になった。

 ウイルスの特徴も相次いで分かってきました。まず最初に分かったのは「ヒトからヒトに感染が起こる」こと。これは当たり前のようで大事なことです。最初は動物から来ているわけですが、ヒトからヒトへの感染がない場合もあるんですね。しかし、今回はあった。主な経路は飛沫感染で、接触感染、糞口感染も起こりうる。

 次に、「R0」、アールノート(ノートはドイツ語の「ゼロ」より)とも言いますけど、「基本再生産数」も分かった。わずか1カ月以内のことなので、大したものです。

編集Y:基本再生産数。さあ、面倒そうになってきました。

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