(前回まではこちらから)

自分の人生最後?のクルマ、その開発者にゴリゴリ聞く
 マツダCX-30 開発者インタビュー(その1)

我が娘はクルマに興味ゼロ、なのに感じた「クルマの味」
マツダCX-30 開発者に聞く(その2)

CX-30(写真:マツダ)
CX-30(写真:マツダ)

 前回、思わせぶりに引っ張りましたが、自分が1995年式の古いメルセデス・ベンツ(S124)から、マツダのCX-30に乗り換えて感じたいくつかの疑問・不満は次のようなものでした。

・発進時や低速時からの再加速が、アクセルペダルの操作とズレる気がする。あれ? と思うくらいレスポンスが鈍いことが時々(常時ではない)起こるような。

・細かい段差を比較的低速(20~40kmくらい)で通過するときに、車体の後ろがどたばた揺すられる気がする。

・前車を自動追従する際の加速・減速は、ちょっと思い切りが良すぎないか?

(注:まったく無粋な心配ですが、記事の中でそれぞれの理由と回答が出てきますので、ここだけ読んで「えーっそうなのか」とのみ込まないようにお願いいたします)

そうだ、プロを雇おう(ついでに連載も頼んじゃえ)

 前回まで主査の佐賀尚人さんに伺ってきたように、CX-30は「ドライバーの意図とクルマの反応のズレ(ノイズ)が少ない」し、数多くの開発・製造スタッフの意思を可能な限り統一したことによる「味(思想)を感じる」クルマだと思う。
 買い物として十分に満足しつつも、お話しを聞きながら「だとしたら、ここはなんとも不可解」と思えたポイントだ。

 さてしかし、自分は自動車を設計した経験があるわけでもない、よくいるただのクルマ好きだ。そんな人間が自分の主観で感じたことで、開発主査に文句を付けていいものか、まして記事にしていいのか。不満の原因が自分の乗り方のせいである可能性だって捨てきれない。ここはかなり悩んだ。どうしたものか。

 クルマに限らず、あらゆる分野の素人である編集者は、だが、唯一最大の武器を持っている。それは外部の専門家の知恵や経験を仕事としてお借りできること。せっかくなら、ネットの連載を読んでずっと気になっていた自動車評論家、池田直渡さんに協力を仰ぐのはどうだろう。そうだ、ついでにごりごり日経ビジネス電子版への連載依頼をしてしまえば一石二鳥ではないか。

 ……という業務上の計算も含めて、池田直渡さんに「僕のCX-30に同乗して、『こういうところが気になるんですが』について、思い過ごしか、専門家から見ても同感か、教えていただけないでしょうか。もちろんギャランティいたしますし、打ち合わせのためにおすすめのお店に行けたら嬉しいです」と打診したところ、快諾をいただいた。そして渋滞の横浜新道の中で渋る池田さんを口説きまくって、首尾良く(「池田直渡の ファクト・シンク・ホープ」)の連載が始まることになったのでした。

 横浜の某大手自動車会社の玄関で取材を終えた池田さんを、愛車のCX-30でピックアップ、近くの広い駐車場に止めて、レコーダーを動かした。

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―― よろしくお願いいたします。さっそくなんですがこのクルマ、発進時や低速からの加速のときに、どうも「踏んだ分前に出ないぞ」と感じることが時々あるんです。

池田直渡さん(以下、池田):このCX-30は1.8リッターのディーゼルターボエンジン搭載ですよね。確認ですが、流れに乗っていたり、高速道路などで加速したりするときはそういうことはないんですね。

ディーゼルを買ってよかったのかな……

―― はい、そういうときは「これぞマツダのディーゼル」という、わくわくするような加速が味わえて、「小遣い削って(その1参照)もこれにしてよかった」と思うんです。でも、実は先日、ディーラーさんでの点検の待ち時間に、2リッターのガソリンエンジンのCX-30に乗らせてもらったんですよ。そうしたら、豊かなトルクのわくわく感こそないものの、アクセルと加速がぴったり一致して、発進時も低速からの加速もなんの不満もなくて、まさしく思い通りに走る。「あれ? こいつはしくじったかな?」と思ったりして。

池田:なるほど。まず、ディーゼルはクルーザー、長距離巡航向きなんですよね、基本的に。速度が乗っているととても快適。でも町中や、近所にお出かけする用途だったら、アクセル操作と加減速のリニアさでは、わりと明確にガソリンのほうにアドバンテージがありますね。

―― うーん。知ってはいましたが改めて言い切られると。

池田:ただ、ちょっと設計の古いディーゼルに乗った経験があれば、「この(CX-30の)ディーゼルエンジンは相当いいな」と感じますよ。普通のディーゼルは、もうとにかく回転物が全部重い。重くて渋い感じなんですよ。だから音と摩擦抵抗ががんがん高まっていくわりには全然力が出てこない。

―― 確かに、この子のエンジンは快音こそないけれど気持ちよく回ります。

池田:しかも四駆を選んでいますよね。SUVで四駆に乗るなら、ディーゼルのメリットは十分あるんじゃないかなと思うんですけど。

―― 車重があって、長距離乗る可能性があるなら、ということですね。そしてディーゼルだけあって燃費がすばらしい。昔ほどではないとはいえ軽油は安いですからね。バブル期前のドイツ車、S124(1985~95年のメルセデス・ベンツのミディアムクラス)は、ハイオク指定の上にガソリン・イーターでしたから、ディーゼルの最新型日本車に乗り換えたら、スタンドで支払うお金が笑っちゃうくらい安くなりました。奥様は大喜びです。

池田:そうでしょうね(笑)。

―― でも、同じディーゼルターボでも、CX-5が積んでいる2.2リッター版だと、発進・低速時の不満はまったく感じたことがないんですが。むしろ加速が良すぎて怖いこともあるくらいで。

池田:あ、そちらに乗られた経験があるんですね。

―― 初期型を友人が買って、けっこうたっぷり乗せてもらって「こりゃすげえエンジンだな」と。この間も最新版にちょい乗りして、どこから踏んでも分厚いトルクが付いてくる頼もしさに痺れました。

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