自分の人生の(おそらく)最後のクルマ、マツダのCX-30。その開発責任者(主査)に、オーナー目線で根掘り葉掘り聞く異例の企画、第2回です。 前回は内装、スイッチ、ナビ、そして「ハンズフリー電話で、なんでこんなに話しやすいんだ」と、クルマの記事らしくない話に花が咲いてしまいました。
今回も脱線また脱線、「主査のお仕事って雑誌の編集長に似てますね」という暴論から広がって、デビュー時の石原さとみさんの写真など挟みつつ、 「やりたいことがみんなバラバラなときに、リーダーはどうすべきか」 「二律背反はチャンス」 「佐賀さん、英語が話せないのにデトロイトに行く」 「異文化でも話が通じたワケ」 「おとうふメーカーに聞いた。『白い物体』を作っちゃダメ」 「デスクYの原稿の直し方」 「なぜ大昔のクルマを参考にしたのか」 そしてタイトルの「クルマに“味”が生まれる理由」に続きます。
お仕事の合間に、どうぞごゆっくりお楽しみください。
「理想」へのアプローチ
―― 前回は内装の話で終始してしまいましたが、こんどはクルマを造っていく過程のお話を。マツダの新世代商品、いわゆる「第7世代」の第1弾となった「MAZDA3(日本発売は2019年5月)」と、「CX-30(2019年10月)」は、同じクラスのファストバック/セダンとSUVですよね。でも、比較すると意外に寸法が違ったりして(下参照、FF、2リッターガソリンエンジン搭載「20S PROACTIVE」で比較)。
全長×全幅×全高 | ホイールベース(mm) | 車重 | |
---|---|---|---|
MAZDA3(ファストバック) | 4460×1795×1440 | 2725 | 1360kg |
CX-30 | 4395×1795×1540 | 2655 | 1400kg |
マツダ CX-30開発主査 佐賀尚人さん(以下、佐賀):はい、ハード面の共通化ではなくて、ソフト面、「これが理想」という考え方を共通化する。それを実現するためにはハードの違いを許容する。けれど、設計・製造のシミュレーションを先行して行うことで、開発の時間とコストを低減する。もちろん製造もですね。言うは易くで大変悩み、苦労もしましたが。
―― 「理想」にどうアプローチするのかですが、ご神体じゃないですけど、まず「こういう具体的な理想の姿」があって、これをファストバックやセダンで表現すると「3」になって、SUVで表現すると「30」になるんだよね、という感じでしょうか。
佐賀:そうですね、「マツダとしての理想って何」というところから入ります。我々は車種も少ないので、「どのクルマに乗っても、マツダらしい」と感じていただきたいですからそこは外せません。その中に、それぞれの商品としての表現の違いというところはあってもいい。我々は、これはマツダ言葉ですけど、「固定」と「変動」と言っているんですけど。絶対に変えないところ、変えていいところが、設計だけではなく考え方にもあるわけです。
―― 固定と変動。金井(誠太相談役、元会長)さんからよく聞かされました。
※「固定と変動」で、どうやって「ハードの共通化」よりも「ソフトの共通化」を達成し、しかもコストダウンを図るかについては、『マツダ 心を燃やす逆転の経営』の7、8章に詳述しました
―― 「固定」と「変動」は、CX-30とMAZDA3の場合は具体的にどういうやり方で。
佐賀:技術をやっている、技術主査的な人間がいます。彼らがプラットフォームとかボディーとか、そういうところのトータルで、「マツダとしての性能はこうだよね」というのをまずつくる。その上で僕ら主査が、車種ごとの表現というかコンセプトをアレンジしていきます。
―― 技術的な「固定」要素は、CX-30用とMAZDA3用があるんですか。
佐賀:技術要素は1つです。あとは適用開発で、それぞれの主査、CX-30は当時は僕、MAZDA3は当時は別府(耕太、現ブランド戦略部 部長)がそれぞれの商品の中での、コンセプト、パッケージ、デザインをそれぞれ分けてやっていく。
―― 「3はスタイルと走り、30はユーティリティー、3より間口を広く」みたいな。
佐賀:はい。そこは初めに、お互いでつくります。これは会社のビジネスの企画部門も含めて、我々は「スモール商品群」と呼んでいますけど、このCカークラスをどう戦っていくかというところから話し合います。本当に初期から、僕と別府はこうやったら(佐賀さん、手を伸ばしてYの肩に触る)会えるくらいの席でやっています。
―― へえ! 近いですね。その開発チームはどんな陣容で?
佐賀:私の居るところは、100人以上いる事務所なんですけれど、そこに我々商品主査がいて、先ほどの技術主査、開発の設計・実験の窓口、パワートレインの設計・実験の窓口が同じ部屋にいるんですよ。そこでいろいろと我々が考えたことを、じゃあ、具体的にどう設計して、実験して、開発しようかという戦略的なことをぱっと集まって決めてという形で、かなりコンパクトに進めています。
主査の仕事と、編集長の仕事
―― 取材で主査の方に何人もお会いして、このお仕事って何に似ているんだろうなとずっと考えておりまして、作ってるものは全然違いますけど、我々出版の業界で言ったら、「雑誌の編集長に似ているのかな」と思ったりするんですよ。
佐賀:そうですか。
―― ここで1つ、佐賀さんにも読者の皆様にもどうでもいい自分話をしますと、もう20年前ですね、血気盛んなころ、俺に新しい雑誌をやらせてください、みたいな感じで手を挙げて、出版までこぎ着けたことがあったんです。
佐賀:いいですね。
―― いいですよね。実は自分でもいいなと思っていました(笑)。ところが、いざ船出しようとしてみると、編集の人間も、販売も、広告も、あるいは外部の協力してくださる方々も、案外「やりたいこと」が違うんです。自分の上司も部下も違う。みんな自分なりの夢があるんですよ。
佐賀:うん、そうでしょうね。
―― 「自分はこういうことをやりたいんだ、それをYさんの雑誌で実現したい」と。特に社内から博打を承知で集まってくれた若手にそう言われるとものすごくほだされる。それをなんとか形にしようと、自分で今思っても泣けるぐらいまじめに働いたんですけど、出てくるものに、自分の好きな要素がどんどん消えていって、「あれ、俺、こういうのを作りたかったんだっけ」と。
佐賀:(頷いて)すごく分かります。
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