(前回から読む→「『ハコヅメ』の打合せは「お題の一言」で決まります」)

―― ところで小ネタなんですけど、現時点で最新の20巻の「伊賀崎警部補の胸襟」シリーズの中で、元警察官の「土谷忠司(ネタバレ防止のためこの名前で表記します)」が……。

:はい。

―― 土谷が、部下というか振り込め詐欺集団の手下から、どうして警察官をやめて、こんなにうまくやっているんですか、みたいに聞かれて、ビジネス誌のインタビューのノリで答え始める、というネタがあったじゃないですか。

小悪党の「土谷」は、手下にどうしてこの商売に入ったのかを聞かれて、いい気分で話し始める。「ん? ここでビジネス誌って出てくる理由ある?」と、ひっかかっておりました。 20巻 その171「伊賀崎警部補の胸襟 4」より (c)泰三子、講談社
小悪党の「土谷」は、手下にどうしてこの商売に入ったのかを聞かれて、いい気分で話し始める。「ん? ここでビジネス誌って出てくる理由ある?」と、ひっかかっておりました。 20巻 その171「伊賀崎警部補の胸襟 4」より (c)泰三子、講談社
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:ありましたね、はい。

―― あれって、大変僭越ながら『日経ビジネス』のインタビューをお受けになったことがもしかしてヒントになっていたりしますか。というのは、タイミング的に、ちょうど去年インタビューさせていただいたときに「伊賀崎の話のネームを描いているんです」とおっしゃっていましたので。

:そうですね(笑)。

―― そうなんですか?

:なにかしら、褒めていただくじゃないですか、こういうインタビューって。気持ちよくこちらがしゃべれるように。

―― いやいや。私、本音しか言ってないですよ。

:そのときに、気持ちよくしゃべっている自分と、もう片方ではちょっとそういう自分を滑稽に思って、上から見ている自分もいるんです。このシーンの土谷忠司は、ちょっと自戒のつもりで描いた。ですので、『ハコヅメ』の作中で、唯一、自己投影しているキャラクターが土谷、ということになりましたかね。

―― 自己投影がよりによって土谷ですかー!

土谷の話ならいくらでも描ける

:はい。だからなのか、土谷については嫌な人間の生々しさが描けたなと自分ではお気に入りなんです。みんなからすごく嫌われていますけど、私は「ありがとう、土谷!」と思いながら描いています。楽しく描きました。

―― 彼が道を見失っていく部分の描写を、土谷の主観から描ききっていらっしゃるじゃないですか。あれが私はすごく、ある意味心地よくて。「こいつは本当にそう思っているだろうし、自分もこの立場になったら、きっと素直に『努力して苦労した俺は、ちゃんと報われるべきだよな』と思うよね」というのがすっと重ねられました。「こうはなりたくない」という意味では、自分にとっても、もう、すごく自己投影しやすいキャラクターをつくっていただいたなと思います。

:ありがとうございます。

―― しかも、気さくなつもりでセクハラ発言を繰り返していたなんて、とどめまで刺してくださるので、「うわあ、本当にこうはなりたくないぞ」な感じに。

:本人はよかれと思ってという感じでやっているところがすごく描いていて、「いいぞ、いいぞ、土谷、いいぞ」と思いながら。またいいネタ思いついた、土谷はどんどん描けるなと。

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